たまには旅の話でも<br>−ゲスト 西山勲さん−

たまには旅の話でも
−ゲスト 西山勲さん−

トラベルカルチャー雑誌 『TRANSIT (トランジット)』の加藤編集長と、『BIRD(バード)』の林編集長による人気連載企画。今回は加藤編集長が、世界のアーティストを訪ねながら彼らの日常を綴るビジュアルジャーナル『Studio Journal knock(スタジオ ジャーナル ノック)』を発刊している西山勲さんをゲストに招いた対談が実現。インディペンデントな活動内容をベースに、旅の魅力や雑誌づくりの魅力についての話をお届けします。

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若い奥さんを連れて世界中を旅しながら雑誌を作る、そのスタイルが羨ましい(加藤)

加藤 『TRANSIT』でお仕事をお願いしたのは、3回くらいですよね。

西山 いつも僕がちょうどいいところにいて。南米にいるときにブラジル特集があったり、ヨーロッパにいるときにはオランダ・ベルギーの特集を作るということで、ルクセンブルグに行かせてもらったり。ロシア特集のときはイスタンブールにいて。

加藤 僕は旅人ではなくて写真家と仕事をしたいタイプなんだけど、最初は西山さんを旅人タイプだと思ってたんですよ。でも、『Studio Journal knock』の第1号が出たときに、この人は写真家なんだなって。それでお願いしたんです。僕は人物写真を見てお仕事をお願いするか決めていて、被写体とちゃんと対峙しているか、相手がカメラマンのほうを向いているかが重要なんです。風景はカメラが撮ってくれるものだと思っているから。

西山 そうなんですね。

加藤 そもそもスタイルが羨ましい。若い奥さんを連れて世界中を旅しながら雑誌を作るなんて僕が一番やりたかったこと。部数もページ数も全部自分で決められるし、しかも毎号のように厚くなっているのは、内容が収まりきらなくなってるからだろうけど、それって理想的な作り方だなって。自分はしがらみだらけのなかで作ってるから(笑)

――でも、取次ぎ(本や雑誌の問屋)も通さず、置いてもらえる書店を足で探されたんですよね。それこそ第1号目は大変だったんじゃないですか?

西山 そうですね。もともとグラフィックデザイナーとして広告の仕事をしていたので、雑誌との関わりがまったくなかったんです。だからどうやって売ればいいのかもわからず、いろんな人に話を聞きました。全国を巡って書店員さんとお会いして、何をしたいのか話して印象付けていったんです。旅に出たら2年くらい帰って来ないですし、最初からメールだけのやり取りでは無理だなと思って。

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手探りのまま取材をしてみたら、めちゃくちゃ面白くて(西山)

加藤 クオリティが高いからネットでも話題になっているし、最近はいい書店で結構見ますよ。

西山 そもそもは、5年くらい前に仕事がめちゃくちゃ忙しくて体調を崩して、集中治療室に入った経験があって。さらに、そのタイミングで祖父母が立て続けに亡くなって、生きることや死ぬことを考えるようになったんです。そうすると、長いと思っていた人生が急に短く感じられて。それまで仕事には恵まれていたんですけど、本当にやりたいことかというと全然そうは思えなくて。そのタイミングで写真を撮り始めて、モロッコにひとりで旅に出かけて。そこから少しずつ構想を練りながら、タイにあるアーティストのコミュニティで手探りのまま取材をしてみたらめちゃくちゃ面白くて。

加藤 うん。

西山 これをまとめて本にしたら面白いなって。お金になるとは思ってなかったですけど、旅先でデザインして文章書いてとか、作りながらやってみようと。

加藤 行動力がすごいですよ。ロシアの特集をやっているとき、2班で取材に行ったんですけどいい写真があがってこなくて。そのときたまたまフェイスブックを見て思い出して、ダイレクトメッセージで「ロシア行きますか?」って送ったら、2週間後には行ってましたからね。あそこはビザも取りずらいし、通訳とかも気になるはずなのにおひとりで行かれて。しかも、こっちは「いろんな時間帯の教会をファンタジックに撮ってください」くらいのオーダーしかしてないのに、いい写真がバンバンあがってきた。

ーー加藤さんは、西山さんが見ているものや物事の切り取り方にシンパシーを感じていますか?

加藤 そうですね。最初は旅先での出会いを通じて、相手の話すことがどう自分に影響を与えるかが第一で。その次に、それを編集して人に伝えて、誰かが疑似体験できるようにしたいっていう、そこらへんは一緒。西山さんの写真と文章は、場所の説明をしているだけでなくて、その空気感までよく伝わってくるんです。それは天性のもので、感受性が強くないとできない。しかも、歳を追うごとに薄れていくもの。自分は10年くらいやってきてかなり薄れてきちゃった部分もあるけど、まだスタートしたばかりの新鮮さがあるから羨ましい。

西山 取材をやっているときはすごく面白くて。アーティストの活動を間近に見て、すごいことをやっている人がいると、どうすれば読者に伝わるのかをいつも考えていますね。

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日本の膨大な情報に浸かってしまうと、それに引っ張られる(西山)

加藤 フィルムで撮ってるところもいいですよね。

西山 いつもプロラボを探しながら、フィルムが買えるかチェックしています。

加藤 売ってるもんですか?

西山 あんまりないですけど、各国にひとつはあるので、そこで現像してスキャンまでしています。でも、南米とか扱いがよくなくて、フィルムが傷だらけになったり、あがってみたら色が浅かったり。フィルムでの撮影が一番やっかいですね、お金もかかるし。あと、フィルムスキャンをしているんですけど、それがまた大変で。

加藤 ブローニー(中判カメラ)のフィルムスキャンってやってるとこ少ないですよね。

西山 そうなんです。写真も、データでみると傷だらけになってたりするんですけど、あえて修正しすぎないようにしていて。土地土地のラボが頑張ってくれた証として、それも味わいとして考えています。

加藤 英語以外も喋れるんですか?

西山 僕は17歳のときにブラジルに1年間いたのでポルトガル語がほんのちょこっと。スペイン語もちょっとずつ勉強していて。

加藤 インタビューとかは全部英語でやるんですよね?

西山 アーティストはわりとアカデミックなバックグラウンドを持っているので、英語を喋る人は多かったですね。ただブラジルは通訳を入れました。カンドンブレの聖女や、カポエラのメストレ(師範)は英語を話さないので。でも、旅先で本を作るなんて、なんて面倒なことをやってるのだろうって思ったんですけど。帰ってくると、現地でやってたから良かったのかなと思うんですね。

加藤 そうですよね。

西山 日本に帰ってくるとすごくいっぱい情報があるし、雑誌も本屋さんに素晴らしいのがいっぱいある。そういうのに浸かってしまうと引っ張られるというか。現地では自分の内側にあるものだけで作れるのがよかった。

加藤 どのくらいの荷物なんですか、テントとかも持って行くの?

西山 テントは持っていかないですけど、必要なときは現地で安いものを買ったり。だいたいは、終わったら手放しますね。プリンターとかも途中で買ってair bnbのホストに売ったり。

加藤 モニターも持って行ってたんですよね。

西山 20インチの小さいやつですけど、基本的には小さいMacBook Airにモニターをつないでレイアウトを組んで。最後は貼り出して確認したいので、プリンターを買って出力して。なるべく自分が日本でやっていた環境を再現していました。

加藤 あとやっぱり文章がいいですよ。感じたことをそのまま書いているので、上手い下手というより伝わってくる。西山さんとのやり取りはメールとかフェイスブックになっちゃうから、東京に出て来ればいいのにって思いますけど。

西山 いまは雑誌の在庫を置く必要があるので、福岡のぼろアパートを借りていて。でも、また旅に出る予定なので拠点というのはあまり考えてないですね。

加藤 いくつまで作る気ですか?

西山 予定ではこのあと、中東とアジア。できればアフリカにも行きたいですね。そして最後に1~2年間くらい日本全国をバンに寝泊まりしながら回って、ものづくりをしている人を取材しようかなって。

加藤 いいですね。

西山 秋頃の発刊を目指して、今年いっぱいは日本で作業していますけど、それが終わったらまた中東に行きます。一度取材しているんですけど、足りないので再取材みたいな感じですね。いまはトークイベントなどをしながらプロモーション活動をしています。

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人と会って話をすると、すごく素っ気ないように見えた街が身近に感じらる(西山)

ーー最初は旅に行くのが目的だったと思うのですが、いまはどんなことを目的として旅をしているのでしょう。

西山 もう旅が目的ではないですね。何かを見たいというのはもう無くて、単純に面白い人に会いに行きたい。人と会って話をすると、すごく素っ気ないように見えた街が身近に感じらるようになるんですよ。例えばサンフランシスコだと、かっこいいビルやかっこいい人に出会えるんですけど、旅人でいる間は馴染んでいないというか。でも、『Studio Journal knock』にも出てくるジェイ・ネルソンの家に泊めてもらいながら、一週間生活したことで、彼の仲間もたくさん紹介してもらって。そうするとその街がいっきに身近になるんですよね。加藤さんとも話したことがあるんですけど、そういう過程に魅了されるんです。

加藤 作ってくのが面白いんだよね。旅をするだけなら同級生と行くほうが楽しいに決まっている。でも、写真を撮るとか、文章を作るとか、何かの目的があっていく場合は、どう作り上げていくかの話ばかりを道中しているんです。写真とか天気とか星とか、アポイント先の人の感じとかね。現場で出会った人に本を見せたときの反応も面白いし、そこから人を紹介してもらえたり。そうすると時間が全然足りないんですよ。

西山 人とのつながりが広がっていくからですか?

加藤 そう、最初に会った人よりどんどん濃くなっていくでしょ? それが結構面白い。街の良さは人が作るから、ランドマークを巡るだけではわからない宝探しみたいな感じ。そういうとき、グッとくるポイントが共通するカメラマンと行くとすごく面白い。「わかるんだ、そこ!」みたいな感じで。それって音楽とか映画とかの趣味ともリンクしていくし。だから、雑誌が売れる売れないってことよりも、誰かに伝わるんじゃないか? っていうことで作る。いつか西山さんと一緒に行ってみたいですね。あっそうだ、もし9月中旬以降空いていれば…。

西山 9月中旬以降はちょうどツアーが終わっています!

加藤 ちょっとドイツ経由でオーストリアの村々を巡ってもらいたくて。僕はウィーンを取材するんですが地方へ行く時間がなさそうなのでお願いできますか?テーマは後でSMSしておくので場所は美しければどこでもいいです。(笑)

西山 ぜひ。

加藤 じゃあ、お願いします。

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01

Mac Book Air

世界を飛び回る西山氏の主だった通信ツールはMac Book Air。極力荷物はシンプルにするべく、無駄なデバイスは持ち歩かないとのこと。

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02

デイパック

日本へ戻ってきた際は、気持ち大きめのデイパックやリュックで颯爽と動き回る。ちなみに長期の取材へ出かける際は、大小2つのスーツケースとカメラバッグ、80ℓのリュックにショルダーバッグという大荷物を奥様と二人で持ち歩く。言わば生活のすべてを持参して旅を続けているのだ。

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03

アート作品

基本的には世界のあらゆるアーティストを求めて旅をしている西山氏。それゆえ、出会ったアーティストの作品や現地で気になったアートブックなどは常にストックしている。

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04

世界各国のラボで現像したネガ

取材したら旅先でラボを見つけては現像する。その時々でやり方は異なるが、ネガスキャンすることも多々ある。あらゆる国のラボで現像したネガは、現在おびただしい量になっているという。

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ノートブック

取材の際に不可欠なノートは、小さめのものが基本。無印良品やFIELD NOTESなどのシンプルなものを愛用している。その場でラフを書き、ページデザインや特集のイメージを膨らませながら取材をしているという。

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加藤 直徳 Naonori Katoh

1975年東京生まれ。編集者。
出版社で『NEUTRAL』を立ち上げ、現在はeuphoria FACTORYに所属。トラベルカルチャー誌『TRANSIT』の編集長を務めている。最新29号「美しきオセアニア~南半球の空と海と大地」が発売中。www.transit.ne.jp

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西山 勲 Isao Nishiyama

1977年生まれ。福岡県出身の写真家・編集者・デザイナー。
33歳で煩った病気を期に、旅をしながら写真を撮りはじめる。その後、タイで出会ったアーティストの自宅に寝泊まりしながら、現地のアーティストたちの日常生活を密着取材をおこなう。2013年5月、その旅を記録したビジュアル誌『Studio Journal knock』を創刊。同年7月、36歳で仕事を辞めて世界のアーティストを訪ねる旅に出発。アメリカ・ロサンゼルスを出発点に取材を開始。オレゴン州・ポートランドでの取材を経て、2014年1月、『Studio Journal knock: California』をメキシコ・メキシコシティからリリース。その後は、中・南米大陸を長距離バスで縦断、ヨーロッパ、中東、ロシア、インドを旅しながら取材・制作を行い、これまで4タイトル発行している。