スタイリストの哲学 〜服部昌孝の場合〜

スタイリストの哲学 〜服部昌孝の場合〜

スタイリストの哲学 〜服部昌孝の場合〜

SHIPS JET BLUE

今SHIPS JET BLUEがもっとも注目しているスタイリスト、服部昌孝さん。人気スタイリスト猪塚慶太さんから去年独立したばかりで、今まさに売り出し中のクリエイターだ。物事を表面的に捉えず、深く掘り下げるクリエイティビティは職人的と評されるほど。そんな彼のスタイリスト哲学とは!?


――まずはスタイリストになろうと思ったきっかけを教えてください。

服部 子供の頃から単純に洋服が好きだったというのがまず一番。それと自分は雑紙が大好きでかなり読みあさっていたんです。僕らがファッションに夢中になっていた2000年前後の頃って雑紙にものすごく勢いがあったんですよね。夢中になって読んでいました。その頃から漠然とスタイリストって言う職業は頭にあったのかもしれません。

――大きな意味での“ファッション”が好きだったのではなく、“雑紙”が好きだったという感じですか?

服部 今思えば“雑紙”、つまりエディトリアルとしてのファッションが好きだったんだと思います。当時は思い切った事をしているファッション雑紙が多くて、あの感じに憧れていました。

――さきほど“漠然と”といっていましたが、具体的にスタイリストを目指す事にしたのはいつ頃だったんですか?

服部 21歳くらいです。大学に入り法学部で勉強はしていたんですけど、このままでいいのかなって思いはじめて。そもそも学校でもかなり浮いてましたしね(笑)。セットアップにビーサンでロンゲみたいな感じだったんで。で、当時からお世話になっていた古着屋のオーナーに「スタイリストとかどうかな」って相談してみたら「とりあえずやってみたら?」ってことに。ダメだったらやり直せばいいだけですからと。で、すぐに猪塚さんに履歴書を送ったんです。

――在学中にですか?

服部 はい。腰を上げるまでには時間がかかるんですが、思い立ったら突進型なんで(笑)。そしたら1週間後くらいに「とりあえずきて」と返事が来て。そこからアシスタントを始めました。そのために学校を夜間に移しましたからね。やると決めたらとことんやりたかったんです。

――ちなみになぜ猪塚さんだったんですか?

服部 あの人が作るもののエッジ感がすごく好きだったんです。それとちょうどアシスタントを捜していたという事もあって、タイミングが良かったんですね。「今は忙しい時期で3日間くらい寝れないかもしれないけどいい?」って聞かれて「いいです」と。そしたら本当に3日間寝れなかったです(笑)。

――いきなり洗礼を受けたわけですね。スタイリスト業界に飛び込んでみて、思っていた事と違うみたいな感覚はなかったですか?

服部 別にありませんでした。これがスタイリストかと思っただけです。

――もっと華やかで格好いい世界だと思っていて飛び込んでみたら、実際はかなりキツい職業だった。そのギャップにびっくりしてすぐにやめちゃう人も多いと聞きますが。

服部 そういうのは一切なかったですね。寝れない事が多くて仕事は本当に大変でしたが、辞めたいっていうのも一度もなかったです。

――結局アシスタントは何年やったんですか?

服部 約5年です。

――その5年間で一番学んだ事は?

服部 ビジュアルや世界観の作りこみ方ですね。何をどこまでこだわれば強い絵になるのか。そういうことの発見の連続でした。ストーリーを考えて、ディテールをしっかり作り込む。小道具ひとつとってもそれじゃなきゃいけない理由とかもあったりして。そうやってこだわっていくことが写真になった時にどうなるかっていうことを現場で学びました。

――そして2012年6月に独立。独り立ちをして1年強、雑紙でも良く名前を見るようになりました。師匠ゆずりの、と言ったらアレかもしれませんが、服部さんが作るものにも強い世界観を感じます。インスピレーションはどこから拾っているんですか?

服部 ずっと考え続けてふと思いつく感じなので、どこからアイデアが降りてくるかは自分では分からないですが……普段からいろんなものを観察し、見るようにはしています。でももしかしたら一番はマンガかな。本当にマンガが好きで、かなり読んでいるんですよ。そこにアイデアの出発点がある事が多いかもしれませんね。なんていうか、直接のビジュアルじゃなくて、雰囲気とか気分みたいな。例えば羽海野チカの世界観だったら“死ぬほど甘酸っぱい感じ”とか。つまりアプローチのきっかけですね。そこからストーリーが膨らんでいって、絵が見えてくるという感じです。

――今回持ってきてくれたものの中には古谷実さんや松本大洋さんの作品もありましたね。

服部 古谷さんの作品は全部持っています。キャラクター設定のアイデアや予想外の動き、あとは人間の内面の描写も深くて参考になります。松本さんの作品は単純にビジュアルが独創的で刺激になるんです。

――MEN’S NON-NO Gもありますが。

服部 これは初めてファーストアシスタントとして現場に連れて行ってもらったときのものです。この雑紙の内容は今見ても新鮮で刺激的。みんな大胆な事をやっていて、僕なんかはまだまだだと思ってしまいます。もちろん今と時代が違うっていうのも分かるんです。景気とか、そういう世の中の事情もあります。でもやっぱり、こういう刺激的で楽しい誌面を作りたいっていうのが僕の原点。そこで勝負したいって思っているんです。

――「ローカルズオンリー」(写真集)は?

服部 この時代のスケートカルチャーがすごく好きなので。モデルを街でハンティングするときも、ずっとこのテンションの人を探してしまいます。なかなか日本にはいないですが……。

――それと今日は服も持ってきてくれていますね。

服部 これは個人的に大好きな90年代カルチャー集めです。このシャーロット・ホーネッツのジャケットはヤバいですよ。スターターでハーフジップって言うのはなかなか出ないんです。マニアックですけど(笑)。古着は主に町田にいって探しています。

――確かにマニアック(笑)。でもそういったところを深く掘り下げる力がスタイリストの素質のひとつなのかもしれませんね。服部さんスタイリストにとって大事な事はなんだと思いますか?

服部 いろいろありますが……強いていえばリサーチ力、アイデアを具現化する行動力でしょうか。結局足で稼ぐ事が多いというか。アイデアがおもしろいのは当たり前で、それをどれだけ完成度高く形にできるかどうかが重要。そこで妥協してしまうと、それなりのものにしかならないんだと思います。借りてくる服もそうですし、世界観を演出する小道具、ロケーション、モデルすべて。正直言って面倒くさい事も多いですよ。時間の制限もありますし。でもそこをどれだけ楽しむ事ができるかだと思います。

――単なる思いつきだけでなく、それを深く掘り下げる創造力ですね。最後に、今後スタイリストとして目指しているものはありますか?

服部 とりあえず今は経験を積む事。そして今はできるだけアンダーグラウンドなところで攻めたいと思っています。媒体がアングラというわけではなくて、よりディープな部分を拾い上げて表現していきたい。それは決して万人ウケするものではないと思いますが、その誌面を読む人にとって少しでも新しい刺激を与えられるクリエイターになりたいと思っています。

服部昌孝

大学在学中よりスタイリスト猪塚慶太氏に師事。約5年間のアシスタントを経て2012年6月に独立。現在は雑誌、カタログ、アーティストを中心に活動中。