Safe & Clean Vol.30  教えて!2018年夏が暑かった理由

Safe & Clean Vol.30
教えて!2018年夏が暑かった理由

NPO法人 下田ライフセービングクラブの活動理念に賛同し、1995年からその発展と振興をサポートしているSHIPS。今回は、気象予報士として(株)ウェザーニューズに勤務している同クラブの堀内恒治さんに、どんなお仕事をされているのか。さらにお天気のことを伺いました。大きな話題はやはり2018年の夏が猛暑だった理由についてです。

2015年ラグビーW杯では気象予報の面で日本代表をサポート

ーー堀内さんには2014年の夏(https://www.shipsmag.jp/things/1873)に登場いただきまして、その節はありがとうございました。あれから部署が変わられたようですね。

堀内 そうなんですよ。現在はスポーツ気象チームに所属しています。簡単に言うと、試合当日などの会場の天気を細かく予想するサービス。戦術や戦略を立てる上でのお手伝いをしているんです。

ーーわかったような、わからないような感じなんですけど(笑)

堀内 2015年に南アフリカでおこなわれたラグビーW杯から、弊社では日本代表チームを気象面からサポートすることにチャレンジをしているんです。ラグビーに関しては、これまでもチームスタッフの方々が独自に現地の気象情報を集めて研究していらしたようで。そういった部分を私たちがやりましょうということになったんです。

ーー具体的には、どう戦術や戦略に生かされるんですか?

堀内 彼らはさまざまな地域を転戦しますよね。次の会場は暑いのか寒いのか、練習日の天気はどうなのかなど、いろいろあるわけです。試合当日に雨が降りそうだとなると、練習のときにラグビーボールに石鹸水をつけて滑りやすい状態で練習したりするんです。

ーーほぉ~、そうなんですね。

堀内 2015年のW杯では、日本が南アフリカに劇的な勝利をしましたよね?

ーーはい、もちろん覚えています。

堀内 実はあの試合会場、平均的に見ると雨が降りやすい地域なんですよ。そんな中、私たちは入念に現地調査を重ね、導き出した答えは「当日、雨は降らないだろう」という予報でした。無事当てることができ、微力ですが勝利に貢献することができたんです。そういったさまざまな活動に感謝いただきまして、帰国後、23名の登録選手に次ぐ24番目のメンバーとして24の背番号が入ったユニフォームを贈呈していただきました。

ーーすごい! 今は世界中にさまざまなデータがあると思いますが、やはり現地に行くことは大事ですか?

堀内 現地に出向く場合と、そうでない場合があります。しかし、実際に現地で観測したり、現地を体感しながら選手と過ごすことは大事です。細かいニュアンスを直接伝えることもできますし。

ーー広範囲な予想ではなく、極めてピンポイントな予報ですもんね。

堀内 トライアスロンであれば、競技場のみならずコース上のポイントはどうなのかなど、範囲も広がります。現在、2020年の東京に向けた準備もしています。その一例として、競技会場周辺の道路や建物を3Dでモデリングしたうえで、気温や風を2〜5mメッシュで予測できる技術を開発中です。

品川駅周辺における地上気温のシミュレーションサンプル(夏の快晴日の12時)

名古屋市中区栄の市街地における風のシミュレーション

2018年夏の酷暑、原因はダブル高気圧!

ーー2〜5mメッシュとは、すごく緻密ですね。これは沿道で応援する観客の人たちも重宝しそう、楽しみです。さて、実は今回、この夏がなぜあんなに暑かったのかを伺いに来たんです。

堀内 本当にすごかったですよね。気温35℃程度が当たり前で、最高気温が40℃を超える地域が出たり。

ーーレベルが違いました。

堀内 その理由は、西からのチベット高気圧と、東からの太平洋高気圧が重なり合って、晴れの日が続いて暑くなったということなんです。

ーーなぜ、ふたつの高気圧が重なって、しかも長く滞在していたのでしょう。

堀内 その理由は難しい。チベット高気圧は珍しいものではないですが、あそこまで張り出してきたこと。そして、いつもより少し北にあったのが今年の特徴です。なぜそうなったのかをひと言でいえば、ジェット気流の影響です。

ーージェット気流は何によって生まれるのですか?

堀内 地球の温度差。北半球では北の方が冷たく、南の方が暖かい。この温度差によって生まれるのが風であり、それは気圧の差と言い換えることができます。

点線は平年の気圧配置

ーーなるほど。

堀内 地球が傾きのない物体で自転もしていなかったら、太陽が当たる部分だけ暖かく、そうでない部分は冷たいだけですよね? しかし、地球は23.4°傾いていて、自転も公転もするために太陽が当たる角度が変わる。そこで、温度差=気圧差が生まれるわけです。そのことで風の流れが生まれ、それが気流や、雲の流れや、高気圧や低気圧の流れを生み出す。そういった循環作用によって、雨が降るといった自然現象が起こるわけです。

地球温暖化の影響とは言い切れない

ーージェット気流の蛇行具合いによって、今年はふたつの高気圧が重なりやすい配置になったと。しかも、例年よりも北側だった。一方で、今年はヨーロッパも酷暑でしたよね?

堀内 はい、ヨーロッパの場合はひとつの高気圧にどっぷりと覆われたわけですが、これもまたジェット気流の蛇行部分に当たったからです。アメリカもNYなどは酷暑でした。

ーー世界同時多発的になると、どうしても地球温暖化の影響があるんじゃないかと考えてしまいます。

堀内 まったく関係ないとも言えませんが、顕著な理由だとも言えない。とはいえ、例年を超える暑さが続いたのは確かです。我々はもちろん、さまざまなところがその理由を過去のデータなどから解き明かそうとしています。

ーーあれだけ暑かったのに、ゲリラ豪雨がなかった気がするのですが。

堀内 都内は確かにほとんどなかったかもしれませんが、山沿いなどは多かったですよ。あとは西日本も多かったですね。関東地方は高気圧がすっぽり覆っていたのが理由かと思います。でも、全体的に見ると少なめだったのは確かです。

9月の後半から秋らしくなると予想

ーー現在、8月末(取材時)ですが秋冬の予想はいかがでしょうか?

堀内 9月の後半から徐々に秋らしくなり、10月〜11月の気温は平均並みとなる見込みです。あとは、台風がどういうコースからやってきて空気を入れ替えてくれるかですね。台風というのは、南から暖かい空気を運んできて、北の冷たい空気を迎え入れながら循環させる作用があるんです。今年は早いペースで台風が発生していて、このままいくと平年の発生数(25.6個)を超える可能があります。

ーー高気圧の張り出しが弱まると、そのヘリを伝うように台風がやってくるわけですね。ちなみに、長期予報の限界は何ヶ月先までなのでしょうか?

堀内 長期予報というのは、現時点での全体のジェット気流を見て、過去のパターンに当てはめながら、この頃には北極から寒気が流れてくるだろう。といった大きな流れで計算されているんです。なので、傾向を予想するにしても3ヶ月より先は難しい。なぜかといえば、それより先はあらゆるパターンが予想されてしまうんですよ。モデルの違いや計算の違いがどんどん広がってしまう。なので、天気を予想するうえで一番大事なのは「今」なんです。現状がどうなっているのかから計算して解析していくわけですから。

ーー2018年夏は多くの人にとって記憶に残る天気だったと思いますが、気象予報士としてはどんなシーズンでしたか?

堀内 2020年の東京はどうなるんだ? という声はよくいただきました。でも、2年後がどうなるかはまったくわかりません。一方で、スポーツ気象チームとしては、選手にとって最悪なコンディション下におけるサンプリングが取れたことは良かった。この競技エリアはこんなことになるという記録が取れたわけです。そこから来年と比べてどうなのか、さらに中期や短期の予報に入り、開催の頃には「2018年の夏よりも涼しい」「2018年の夏並み」といった共通言語で比べることができる。今年の酷暑は、来年や再来年に活かせるデータだと思います。

PROFILE

堀内恒治 | KOJI HORIUCHI

日本ライブセービング協会認定のインストラクター。
2000年、吉佐美大浜で遭遇したマスレスキュー(大人数の溺者をパトロールメンバーで救うこと)を経て、台風や波を深く知ることの大切さを痛感。気象予報士の資格を取得し、その後、株式会社ウェザーニューズに入社。
2016年には、気象予報士としてリオでトライアスロン日本代表チームなどの支援を経験。2018年6月より現在のスポーツ気象チームに在籍。2018年8月はジャカルタでチームや選手に帯同するなど、様々な日本代表チームの支援に携わっている。
2017年、下田ライフセービングクラブの一員として、姉妹クラブであり全豪屈指の強豪クラブであるマルチドーライフセービングクラブより名誉会員の称号を得る。