新潟・燕三条から発信される新しいアウトドアのかたち<br>Snow Peak本社を訪ねて

新潟・燕三条から発信される新しいアウトドアのかたち
Snow Peak本社を訪ねて

JR燕三条駅から車で40分ほど山道を上がっていくと、突如としてコンクリート打放しのモダン建築が現れる。それがアウトドアブランド「Snow Peak(スノーピーク)」の本社だ。東京ドーム4つ分という広大な敷地にキャンプ場も併設しており、休日には多くの家族連れやキャンプフリークが県内外から訪れる。今回はこの開放感のある場所で、アパレル事業本部長でありデザイナーの山井梨沙氏にお話を伺った。本格始動してから丸3年。アパレル部門を立ち上げたそもそもの目的と気になるこれからのヴィジョンとは?

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Snow Peakが手がけてきた代表的なギアは、アーカイヴとして一部展示されている。ちなみに大きな看板は、1958年に金物問屋「山井幸雄商店」として創業した当時の実物。

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谷川岳をこよなく愛した登山家でもあった幸雄は、当時の道具に満足できず 「本当に欲しいものを自分でつくる」という志のもと、オリジナルの登山用品を開発。燕三条の優れた職人技術を活かし、仮説と検証を徹底的に繰り返して生まれた、使いやすくクオリティの高い登山用品は、次第に山好きの注目を集めていった。それが現在のSnow Peakへと繋がっている。

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眺めているだけでも心地よい広大な敷地は、オートキャンプ場になっている。あらゆるギアのレンタルも行っているため、身一つで来場してもキャンプが楽しめる。

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アフターサービス室では、ユーザーから依頼のあった商品の修理やメンテナンスが行われている。こちらも全面ガラス張りになっていて、作業の様子が見学できる。

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「目指しているのは
着心地のよい日常着なんです」

——もう5シーズン目に突入したアパレル部門ですが、3年前に始めようと思ったのには何か理由があったんですか?

「そうですね。自分はファッションが好きで仕事も元々ファッションに携わっていたんですが、子供の頃から慣れ親しんでいたアウトドアを20代になってから改めてしてみたいと思うようになったんですね。それで、いざアウトドアに行こうと思ったときに、自分のようにファッション好きが着ていける服が全然見当たらないことに気がついたんです。選択肢がすごく少なくて。そのときにファッション性が高くてアウトドアの機能がある服がもっとたくさんあれば、よりアウトドアを楽しむ人が増えるんじゃないかと思ったんです。それがきっかけでSnow Peakに入社して、アパレル事業を立ち上げたという経緯があります。興味がない人でも心地よくアウトドアが楽しめる服というのが、自分が追求しているものですね」

——なるほど。子供の頃からアウトドアに慣れ親しんでいたとおっしゃいましたが、日常的に楽しんでいたんですか?

「はい。現社長は私の父にあたるんですけど、私が生まれたのは、ちょうどSnow Peakのオートキャンプ事業を立ち上げた時期だったんですよ。そういう状況もあって、自分は1歳2ヶ月でキャンプデビューをしているんです。それからは父が開発したギアをフィールドで実際にテストするみたいな生活で(笑)。本当にアウトドアというものが自分には染み付いていると思います」

——目指しているウェアのイメージとしては、山でも街でも普通に着られるということなのでしょうか?

「そうですね。今でこそ専門的なアウトドアブランドも街着のカテゴリーやラインを増やしていますが、キャンプをすると考えたときにオーバースペックのウェアってまだまだ多いと思うんですね。日常に必要な機能とキャンプに必要な機能をちゃんと踏襲して、街と自然を心地よく行き来できるというのがSnow Peakが提案する服なんです」

——機能とデザインというのは、バランスが難しい部分もあると思うんですが、重きを置いているのはどんなところなんでしょうか?

「一番ウェアを作るうえで神経を使っているのは、実は機能でもデザインでもなく、着心地のよさなんです。ファッション感度が高い人にもアウトドアの感度が高い人にも、共通して訴えかけられるものってなんだろうと思ったときに、自分で出した答えがそこだったんです。キャンプを楽しむのは、東京近郊の大都市に住んでいる方が圧倒的に多いんですけど、休日の余暇で自然に触れたときに、都会にいるときのように快適に過ごしたいと大多数の方が思っているんですね。それをウェアを通して具現化していくと、着心地のよい日常着というヴィジョンが見えてきたんです。そういうものを提案していけば、着てくれる人の生活がより豊かになるんじゃないかと思っています。着心地がよくて毎日着ているけど、気がついたらSnow Peakの服だったというのが自分の理想です」

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会社見学は常に一般開放されている。こちらは社員が日々業務を行っている“クリエイティブルーム”。各々のデスクは決められておらず、空いた席に毎日自由に座るという画期的なフリーアドレスシステムが導入されている。部署ごとの括りも取り払われているため、自由な発想で社員一人ひとりが意見を出し合えるとのこと。会議室代わりに大きなテントが設置されているのも印象的だ。

「自然のカラーインスピレーションが
ウェアにも反映しています」

——それは興味深いですね。そういえばSnow Peakの服は、ダークカラーや定番色が多いイメージもありますが、それも意図的なんでしょうか?

「ちょっとひねくれた言い方になってしまうかもしれませんが、例えばカラフルなアウトドアアパレルに身を包んだ“山ガール”と言われるようなテイストの格好というのは、私的にはすごくコスプレ的に見えてしまうんですね。もちろん標高2000mとかの雪山に行くようなときは遭難した時に見つけやすいように原色を身に着けるのには意味があるとは思いますが。私は小さい頃からキャンプをするのが当たり前でしたけど、キャンプだからカラフルなものを着るという感覚自体がなかったんです。言ってしまえば、キャンプというのは普段の生活をしているときに着ている洋服で楽しめるものなんですね。なので、それをちょっとアップデートしてあげた服というのがイメージなんです。色使いに関しても普段日常的に着ることを想定していますので、落ち着いたものが中心になっています」

——ちょっと男性的なデザインだと感じる部分もありますが……

「そうですね。よく“まさかこんな無骨な洋服を女性がデザインしていたとは”、と言われて驚かれます(笑)。前職ではランウェイでコレクションを発表するようなレディスのブランドに携わっていたんですけど、テーマがあってそれをファッション的に表現するような洋服というのは、もともと自分の性に合っていなかったみたいです。アウトドアの洋服を作り始めると、これは撥水性があって強度があるから外で雨が降っても対応できるとか、通気性をよくする必要があるからベンチレーションを付けるとか、デザインするときに目的が明確に見えるんですね。だから作れば作るほど頭がすっきりするんですよ。そういう機能的なディテールというのは、メンズウェアからきているものがたくさんありますから、自然とメンズっぽいデザインが増えていったのかもしれないですね(笑)」

——機能面に関しては、必要最小限ということなのでしょうか?

「例えば、すごく暑い日にも着られるように吸水速乾性を高めるとか、冬場にじっとしているときでも快適なように防寒性を加えるとか、焚き火をしていても燃えにくいとか、そういうちょっとした部分の機能を追求しています。普段の生活が、キャンプ場でも同じようにできることを意識していますので、自分が日常的に着たいものの機能を、ちょっとだけアップデートさせているような感覚ですね」

——それは子供の頃からよくキャンプに行っていたために、最低限必要な機能をよく理解しているから、しっかり提案できる部分もあるのではないでしょうか?

「そうかもしれないですね。小さいときからパタゴニアやザ・ノース・フェイスといったアウトドアブランドのウェアをよく着ていましたし、幼稚園のときからテバのサンダルを履いていましたから(笑)。どういうシーンでどういう機能が必要とされるのかは、知らない間にわかるようになっていたのかもしれません。その自分の原点に戻って、今はウェア作りをしているという感じです」

——アパレルがスタートして3年が経ちましたが、逆にカラフルなものだったり柄物を増やしたり、新しいアプローチにトライしたいという気持ちはありませんか?

「続けていけばそういうときがくるのかもしれませんが、今は自分が東京で暮らしていて、自然に対して求めているものを、モノづくりに反映させていければと思っています。それは結構色使いにも出ていると思うんですね。本社のあるこの燕三条もそうですが、こういう自然が豊かな場所から東京に帰ると、自然のカラーインスピレーションが強く残っていることが多いんです。例えば夏から秋にかけて変わっていくグリーンのトーンだったり、空のブルーだったりグレーだったり。そういう微妙な自然の中間色みたいなものが自分のなかに強く残るようで、その結果として、どうしても淡い色使いの服が多くなっているのだと思います」

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「商談のあとに、そのままキャンプに
出かけられるような服でありたいんです」

——なるほど。近年は都会でもゲリラ雷雨が当たり前になっていますし、天候も過酷になってきています。服作りで、自然ではなく逆に都会での快適さも意識することはありますか?

「確かに自分はキャンプフィールドで着ることを想定した服を作っていますが、ほとんどの人は普段は街で生活をしていますよね。ですので、週末の2日間に役立つ機能が、平日の日常着としてもフィットするということは常に考えています。でも逆に考えると、キャンプで使うことを想定した機能であれば日常生活も快適になると思うんですね。アルパイン向けのものは、街で着るには相当ハードでオーバースペックになってしまいますが、キャンプぐらいに対応したスペックなら、都会で着るのにもちょうど良いと思っています」

——確かにキャンプぐらいっていうのがポイントなのかもしれないですね。

「そうなんですよ。本当にキャンプって普段の生活と変わらないんですよ。キャンプをよくしているスタッフになればなるほど、Tシャツに短パンにビーサンみたいな軽装になっていくんです。ただ、肌寒くなった時だけ羽織れるものがあればいいな、とか。必要最小限なんですよ」

——逆に、年に一回だけキャンプに行くとか、野外フェスに行くとかいう人ほど、頑張ってコスプレみたいになっちゃうのかもしれないですね。

「それはあるかもしれないですね(笑)」

——そういう意味では、普段の生活に馴染むSnow Peakの服は、キャンプの玄人ウケがする服なのかもしれないですね。

「そうでありたいと思っています。もちろん年に一回フェスに行くなら、カラフルに着飾って気分を盛り上げるのもいいと思うんですが、Snow Peakで発信している服はそうではなく、より日常にフォーカスしたものでありたいんです」

——ということは、例えば朝に山に登って、そのまま午後から仕事に行くようなことも可能な服ということですね。

「はい。本当にそれを目指しています。例えば私も国内外の出張に行くときによく乗り物に乗りますが、そういうときにも役に立つ服でありたいですし、商談をして、そのままキャンプやアウトドアに出かけられるような服でもありたいと思っています。実際にSnow Peakの中綿のパンツを飛行機に乗る時によく穿いていると言っていただくこともあるんですが、それは嬉しいですね」

——日常生活のいろいろなシーンに無理なくフィットするのがSnow Peakの服ということなんですね。

「そうですね。オートキャンプというのも、もともとはすごく日常的なものなんです。アメリカはアウトドア大国と言われますが、みんな思い思いのスタイルで日常的にキャンプを楽しんでいるのが大きな理由だと思います。日本は、キャンプにしてもロッククライミングやスキー、トレッキングにしても、まだまだ楽しんでいる方は少数ですよね。アウトドアを日常的に楽しむことは、すごく生活が豊かになることに通じますし、人間本来のあるべき姿に近づけることだと思っています。身構えずにもっとアウトドアを楽しむことができるように、自分たちが作っている服でお手伝いしていければいいなと思っています」

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ポリエステルのストレッチ素材に撥水加工、アクリルコーティング(防風)を施したプルオーバー。ボディにジップポケットを配することで使い勝手の良さをアップデート。

¥14,000(+tax)

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コートのインナーにも最適なキルティングダウンベスト。コンシールファスナー仕様で、ミニマルな表情に仕上げている。

¥32,000(+tax)

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中綿入りのカーディガンとパンツは、機内でのリラックスウェア、日常の部屋着、キャンプの際の防寒着など、活用幅が実に広い。リピーターも多いベストセラーシリーズの一つだ。
カーディガン ¥16,800(+tax)
パンツ ¥16,800(+tax)

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軽量かつ吸水速乾性、遮熱・断熱性も高い、TEIJIN Octa素材を採用したパーカー。耐久撥水加工済みなのでフードを被れば簡易レインウエアとしても活躍。 無駄な配色を排除しているため汎用性が高い。
¥22,000(+tax)

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膝丈のコートは、レディスで展開。最小限の防水性能とシェイプしたシルエットが持ち味だ。モッズコート感覚でタウンユースでも取り入れられる。
¥38,000(+tax)

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山井梨沙 RISA YAMAI

新潟県生まれ。Snow Peak創立者の祖父・幸雄、現社長の父・太を持つ三世代目。 幼いころからあたりまえのようにキャンプや釣りなどのアウトドアに触れて育ち、その経験に根ざした発想と行動力で2014FWよりSnow Peakのアパレル事業をスタートさせる。新世代の眼で日本のアウトドア文化をとらえ、Snow Peakが培った“ないものはつくるDNA”を受け継いだモノづくりをファッションを通し発信している。