AERA STYLE MAGAZINE 編集長 山本晃弘氏に訊く<br>丸の内のビジネススタイルにふさわしい小物選びとは?

AERA STYLE MAGAZINE 編集長 山本晃弘氏に訊く
丸の内のビジネススタイルにふさわしい小物選びとは?

丸の内のビジネススタイルに纏わるルールを紐解いた前回の企画が大好評につき、今回も「AERA STYLE MAGAZINE(アエラスタイルマガジン)」編集長、山本晃弘氏を迎え、ビジネススタイルの基本についてお話を伺った。スーツの着こなしから一歩進めて、今回は靴や鞄、時計といった小物選びの基準に纏わるお話。トレンドに左右されない真に好感度の高いビジネススタイルを極めるには、実は小物こそ大いにこだわるべきとのこと。とはいえ、そこにも重要なルールがあることをお忘れなく!

photo

長く付き合うなら英国ノーザンプトンの伝統靴を買うべきです

――今回はビジネススーツに合わせる小物についてですが、まずは基本となるルールからお話をお伺いしたいのですが。

山本 そうですね。まずは小物の基本でもある靴や鞄ですが、黒か茶のものを選ぶ。それが大前提です。加えて、ベルトなど他の革小物も、それに色を合わせるということが基本です。スーツの着こなしと同様に、上品であるということを考えれば小物は目立たないほうがいいわけですから、ワントーンでまとめるのがいいわけですね。

――なるほど。やはりスーツ同様、まずは定番色を選んで統一感を出すということですね。それでは靴から詳しく教えていただけますでしょうか。

山本 靴は、基本的に紐靴を履いてください。当たり前のことのように思われるかもしれませんが、実はビジネスマンで紐靴を履いていない方もけっこういらっしゃるんですね。そういうお話をすると、当然ジャケットスタイルにスリップオンシューズはアリかナシか? という質問が出てきます。学生だったときに最初に買ったドレスシューズがローファーだったから、ローファーはドレッシーな靴だと思われている人は非常に多いんですよ。でもローファーはどちらかというとカジュアルなシューズなので、ビジネスシーンにおいてオススメしません。そういうことを踏まえてベーシックな紐靴を選ぶとなるとストレートチップ、プレーントゥ、あるいはセミブローグなどになってくるわけですが、一番オススメするのがストレートチップですね。もっともベーシックな紐靴のスタイルはもちろんプレーントゥですが、ノーズの長さが間延びしたように感じる方にとっては、ストレートチップがベターだと思います。

ビジネスシーンでの基本となる靴は、プレーントゥ(一番左)かストレートチップ(右中、一番右)。昨今人気が急上昇しているモンクストラップ(左中)も問題はないが、年齢などを考慮して自分に似合うものを選んでおきたい。
左から
シューズ ¥35,000(+tax)/SHIPSMORE
シューズ ¥35,000(+tax)/SHIPSMORE
シューズ ¥35,000(+tax)/SHIPSMORE
シューズ ¥35,000(+tax)/SHIPSMORE

――それでは、紐靴以外はビジネススタイルには不向きなんでしょうか?

山本 唯一紐靴じゃないものでビジネスシーンに履いていいと言われているのは、モンクストラップです。今やかなり浸透していますけれども、モンクストラップは名前の通り僧侶が祭事をするときに履く靴だったわけですから、ドレッシーなものなんですよ。昨今ではモンクストラップがトレンドになっていて、若い世代にも人気が高いようですが、正直に言えば若いビジネスマンには似合うとは思わないですね。30代中盤から40歳前後の方がモンクストラップを履いているのを見ると、着こなしにツイストが効いていて、いいなと思いますが、若いビジネスマンは、まず基本の紐靴から合わせていくのがいいと思います。

――他に、ルールを崩さずにバリエーションとして合わせられる靴はありますか?

山本 少しドレスダウンをしたいとか、装いに抜け感を出したいと思われるのであれば、茶色のスエードの靴やクレープソールの靴などはアリだと思いますね。そのときにベルトもスエードにすれば、ビジネススタイルとしてはより収まりがいいです。靴というものは、例えばグッドイヤー製法のいい靴であれば、何十年もしっかり履けるんですね。スーツはサイズの問題や微妙なシルエットの違いが生じることで、一生着られるものはほぼないんですが、靴は上手に選べば一生履けるものがあります。レザーは自分の足の形に馴染んでいきますし、それは傷んでいるというよりもエイジング、つまり味が出たということですから、靴はいい感じに年を重ね長く愛用できるものなんです。

――それでは、ビジネスシーンで長く付き合っていける理想的な靴とは、端的に言いますとどういった靴になるのでしょうか?

山本 靴作りの街として伝統があり信頼の高い英国ノーザンプトンで作られた定番靴を選ぶのが、理想だと思います。定番のストレートチップで7万円前後、最近では為替レートの関係でもうちょっと高いものもありますが、そのぐらいの価格のものを買ってほしいなと思いますね。それ以上の価格の靴になってきますと靴好きや靴マニア向けの嗜好品になってきますので、ビジネスシューズにそれほど投資する必要はないと思います。そういったことを踏まえて、まずは長く付き合える英国の伝統靴を買うべきですね。

英国ノーザンプトンの伝統靴を代表するブランドの一つが、クロケット&ジョーンズだ。創業は1879年。木型のバリエーションも多く、日本人に合ったものも数多くラインナップしているため、定番の紐靴をお探しなら一度トライしてみることをオススメする。こちらのようなパンチドキャップトゥ(穴飾りのあるストレートチップ)なら、トレンドに左右されずに長く付き合える。
シューズ ¥65,000(+tax)/CROCKETT & JONES

photo

小振りで薄マチのブリーフケースが基本です

――なるほど。それでは靴の次に重要な鞄に関してはいかがでしょうか?

山本 鞄はですね、ビジネスマンにアンケートで聞いたら面白かったんですが、レザーのバッグが欲しいという方が結構多いんですよ。もちろんナイロン製の使い勝手のよいバッグも人気が高いんですが、アンケートでは1位が黒のレザーのバッグ。それは、やはりいいものを長く使いたいというビジネスマンの思いが反映しているんです。ただ、レザーの難点はナイロンに比べて重いこと。それを理由に敬遠されるビジネスマンもいますが、最近はレザーのなめし方や作り方も進化していて、見た目に反して持った時に驚くほど軽いバッグがたくさん出てきているんですよ。そういった意味では、今はレザーバッグを買ういいタイミングだと思います。

――形はもちろんブリーフケースですね。

山本 そうですね。加えて、最近は小振りなものが増えてきていますよね。小振りで薄マチのブリーフケースが主流になりつつあります。今はiPadだけを持ち歩くような軽装のビジネスマンも増えていますから、それで十分事足りるんですよ。スーツのシルエットが崩れるのでポケットにものを入れないでくださいと私はよく言うんですけど、ビジネスツールが軽装になってきても、携帯や財布を持ち歩く必要があります。そうなると、バッグの使い方は女性とほぼ変わらなくなるので、小振りで薄マチのバッグで問題ないということが理解できると思います。

――それでは、レザーのコンパクトで薄マチのブリーフケースが基本ということですね。

山本 そうですね。ただ、バッグは用途によって変える必要がありますよね。出張に行く時に小振りのブリーフケースというわけにいきませんから、一泊の出張用にシャツや着替えを入れられるバッグも用意しておけば安心ですよね。

薄マチの小振りなレザーのブリーフケースこそ、スマートなビジネスマンが持つべき理想的なバッグだ。レザーであっても今はライトウェイトのものが数多く登場している。
バッグ ¥38,000(+tax)/TOFF&LOADSTONEMORE

スーツにショルダーバッグは基本的にNG。よく見かける光景ではあるが、スーツのシルエットが崩れるので絶対に避けるべきだ。

――理想的なバッグに関してはよくわかりましたが、逆にビジネスマンが持ってはいけないバッグはあるのでしょうか?

山本 ショルダーバッグはやめたほうがいいと思います。日本人のビジネスマンは働き者なので、雨が降って傘をさしながらでもスマホでメールに返信したり、手帳も見たりしますから、ショルダーストラップがないとダメだという方は結構いるんですよ。でもストラップを肩にかけたり斜めがけにしたりすると、スーツのシルエットが崩れ、シワの原因にもなるので、やはりバッグは手に持つのが基本です。また、厳密に言えばトートバッグはビジネスバッグではないんです。海外ブランドの中には、そもそもトートバッグは男性のものだと考えていなくて、いまだにメンズのトートを作らないというところもありますから。ビジネスシーンでギリギリ許されるとしたら縦型のトートですね。もちろん横型のほうがバッグの中に入れた荷物は探しやすいんですが、縦型のほうが上品に見えますから。

――基本はスーツのシルエットを崩さないバッグということですね。若い方だとスーツにリュックを背負っている方もいますが……。

山本 リュックはね、アリかナシかを断言するには難しいんですが、やはりナシですね。大人のビジネスシーンで黒のシンプルなレザーのリュックなどを提案しているブランドも当然ありますが、リュックを背負ってビジネスの営業に行くというのは、すごく違和感がありますよね。でも、自転車通勤をしてその日は会社でデスクから一歩も動かない日であれば、リュックでも問題ないと思います。やはり靴も鞄も自分がどう合わせたいかというよりも、どう見られるかということを考えて、シーンを想定してセレクトすべきだと思います。

photo

薄型、小振り、三針、視認性が高い、そういう時計が一番ふさわしい

――なるほど、よくわかりました。それでは、次に一番難しそうな時計選びに関してもルールを教えていただけますでしょうか。

山本 はい。まずお伝えしたいのは、ビジネスマンが時計をしていないのは根本的にNGです。会議中などにケータイで時間をチェックしている人がいますが、それは相手に対して失礼ですよね。まずは、時計をする習慣がないといけません。次に具体的な時計の形ですが、ビジネスシーンで間違いがないものといえば、三針の視認性のいいものですね。例えばクロノグラフの腕時計は非常に人気がありますし、男はみんな欲しいと思うかもしれませんが、クロノグラフの機能を実際に使っている人って見たことがないですよね(笑)。基本は三針で、できればケース径が40ミリ前後の小振りな丸型の時計。それがスーツに一番合いますね。

――色やベルトなどはいかがでしょうか?

山本 やはりSS(ステンレススチール)のブレスレットベルトですね。もちろんゴールドカラーは避けて、シルバーカラーが基本。レザーのベルトのほうがよりドレッシーなんですが、日本の湿気の多い気候を考えれば、SSのブレスレットベルトがおススメですよね。腕時計の大きさでは、“デカ厚”とか“威張りの効く時計”とかいう表現で、ボリューム感があるものが流行した時代も10年ほど前にあったんですが、時計で威張りを効かせる必要は、ビジネスシーンではまったくありません。もはや、その言葉だけでも下品というか、腕時計で威張ってどうするの? という感じですよね(笑)。ですので、ビジネスシャツの袖口を傷めない薄型、小振り、三針、視認性が高い、そういうものを買って欲しいということです。

小振りなケースで三針、薄型で視認性の高い時計であれば悪目立ちせず、好印象をもたらす。まずは基本中の基本として、そういう時計を必ず身につけることを習慣化したい。
ウォッチ ¥33,000(+tax)/SHIPSMORE

――雑誌で見る時計特集は、ステータス感を煽るものか、機構的なものに特化したものが多くて、上品なビジネススタイルに合うものを精査したものは少ないように感じるんですが?

山本 それは確かにそうですね。自分もバーゼルとジュネーブの発表会に毎年行っていますが、服の構造とか素材の進化と同様に、新しい機構を搭載したり、新しい素材を使った新モデルが毎年発表されるので、注目に値するものだと思います。それに関して特集を組む雑誌は多いですし、その情報を楽しみにしている読者が多いことも事実です。ただ、ビジネスシーンで身につけるべき時計の選び方は、また別の観点が必要です。車と時計は、“なんでそれを買ったの?”と、男は聞かれることが多いんです。そう問われたときに、それなりの理由がないと、“この人どうなんだろう?”と思われるものでもありますよね。その買う理由は、例えば“自分が生まれた年のヴィンテージウォッチが見つかったから”でもいいですし、“昔は海によく行っていて、そのシチュエーションを感じていたいからマリンウォッチを着けています”でもいいと思うんです。何々が流行っているからとか、デカくて威張れるからということではなくて、何かしら自分なりのストーリーが語れる時計であること。それがあれば、インポートの高級ブランドであってもそうでなくてもいいと思いますけどね。

――なるほど。それでは、難しいとは思うんですが、ビジネスマンにとっての適正な時計の価格帯はどのぐらいになるのでしょうか?

山本 そうですね。それは時代によって変化している部分もあります。実は高ければ高いほど売れていたような時代もあったんですね。今は、いわゆる機械式時計には50〜60万円、そして100万円前後の価格帯に人気商品の山があります。いっぽうで、ブランドによっては7~8万円、あるいは15万円前後のものでも、スイス製の自動巻きムーブメントを搭載していて、機能的には高価な腕時計に引けをとらないものもあります。買うブランドに何を求めるかは人によって違いますから、逆にしっかりと自分なりの基準さえあれば、それぞれの予算に応じた価格帯で、その基準を満たした腕時計を探せばいいと思いますよ。ただ、どうしてもオススメのものを教えて欲しいと言われたら、私は15~30万円ぐらいの価格ゾーンのスイス時計を買うのがいいと思いますね。スイスのムーブメント専業メーカーの信頼できる機械を搭載した、いろいろなブランドの腕時計がありますから、その辺の価格帯で自分の好みにあうデザインやブランドのものを探してみるのもいいんじゃないでしょうか。

――現状、ビジネスマンに支持率が高いのはどういう時計なんでしょうか?

山本 そうですね、もちろん機械式時計で売れているモデルはいくつもあるんですが、じつは今活況を呈しているのは、10万円台中盤から30万円ぐらいのセイコー、シチズン、カシオのGPS時計なんですよ。出張した先で瞬時に現地の時間がわかるというものですね。その前には電波時計人気というのがあったんですが、電波時計って実は日本が中心で、世界にはアンテナの電波が届かないエリアがあるんですよ。それでGPSに支持が流れていった部分もあるんですね。

――確かにGPSは、合理性を求めるビジネスマンにとっては重宝するのかもしれませんね。最後に、靴や鞄、時計以外の小物でビジネスマンが大切にすべき小物があれば教えてください。

山本 実は、僕自身が使っている名刺入れは、中に仕掛けがあって、かなり遊びのあるものなんですよ。こういうものはビジネスマンとしては使っちゃいけませんよ、とよく言っているんですが(笑)。遊びのある小物をどこまでOKにするか、その線引きは非常に難しいですよね。接する相手にもよりますし、業種にもよりますし、自分のキャラクターにもよりますから。

――遊びが強すぎると逆効果になりますよね。

山本 そうなんですよ。名刺入れや財布って自分と仕事上で関わる相手との間にあるものなので、選ぶのが難しいですよね。例えば食事をして、お支払いのときに出した財布がスタッズがいっぱい打ち込まれているようなものだったら、ビジネスシーンとしては違和感を覚えますよね。名刺入れや財布は、2色づかいのバイカラーぐらいのお洒落さがちょうどいいかもしれませんね。使うときに、内側の違う色がちらっと見えるぐらいが目を引くといいますか。

山本氏の名刺入れは、開くと中から仕掛け絵本のように鳥が飛び出すユニークなもの。遊びのある小物としてかなりインパクトがあるが、これが許されるのは山本氏のキャラクターがあってこそ。

――ビジネススタイルとしては、あくまでさりげない遊びということですね。他には何か小物の使い方でオススメはありますか?

山本 日本の男性が失った文化は、スーツをオーダーする文化と帽子を被る文化だとよくいうんです。実はスーツのオーダーは、ビジネスマンを調査すると50%以上の人が経験していますから、復活しつつあるように思います。ただ帽子に関しては、ビジネスマンはまだまだ被っていないですよね。若い人がファッションで被るものではなく、ビジネスで被るハットはコートと同様に先方に伺ったときは必ず脱ぎますから、自分なりのお洒落を楽しめるものとして、ビジネスマンはもっとチャレンジしてみてもいいのではないでしょうか。あと眼鏡ですね。小振りのウェリントンであるとか、ボストンタイプであるとか、今はクラシックな形が主流ですから、それで自分のキャラクターをいろいろと変えてみることには、どんどんトライしてみてもいいと思います。価格もお手頃になっていますから、1万円前後でイメージがガラッと変えられたりするわけですから、もっと有効活用したほうがいいと思いますよ。

――小物というと一点豪華主義という考え方もあると思うのですが、ビジネスシーンでそれはタブーなのでしょうか?

山本 そもそも小物で豪華さを出す必要はないんですね。豪華さではなく、ボールペン一つとっても名刺入れ一つとっても、ちゃんと自分で選んだものを使うということが重要なんです。7〜8万の英国靴を選んで買うのも豪華だからではなく、長く使えるからなんです。小物は、いいものを買ったほうがいいですけど、それは豪華なものを買ったほうがいいということではなくて、自分が思い入れの持てるものを選んで、それを長く使うべきだということなんです。同じようなスーツを着て働いているビジネスマンも、そこですごく差が出ますからね。だから靴にこだわったり、時計にこだわったり、革小物にこだわったり、ボールペンにこだわったりするのは、ビジネスマンとして正しいことなんです。ただ、一点豪華主義のような感覚で小物だけでも高額なものをと考えるのは、本末転倒だと思いますね。

photo
photo

山本晃弘 Teruhiro Yamamoto

AERA STYLE MAGAZINE編集長。MEN’S CLUB、GQ JAPANなどを経て、2008年より現職。服飾史からモードまで熟知した見識で、的確にモノをセレクトする目利きとして、多くのトークショーやイベントなどにも参加。ファッションに関する疑問に答えるアドバイザーとしても幅広く活動している。朝日新聞デジタルにて「男の服飾モノ語り」を連載中。
http://www.asahi.com/and_M/style/yamamoto_list.html
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17865