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一期一会 選・桑原茂一  ゲスト:田中知之 / FPM

一期一会 選・桑原茂一
ゲスト:田中知之 / FPM

毎号、各ジャンルで活躍されているゲストをお招きし、その生き方を伺う本連載。今回は、DJで音楽プロデューサーの田中知之さんが登場。今回は、仮想ではないリアルな体験の重要性についての話が弾みました。

桑原茂一と田中知之/FPM_1、dictionary_vol.27_1

死ぬまで聴けるような音楽が作りたい(田中)

桑原 いまは何のレコーディングをしているの?

田中 今日は自分の作品です。最近、いろんな曲を作り溜めていて。というのも、僕らが普段やっているダンスミュージックは、流行の最先端で刹那的であることが美学のような側面があるじゃないですか。そういうのは嫌いじゃないし、新しいことに挑むのも好きなんですけど。その反面、一生自分が聴き続けられるものはなんだろう? と考えたりもするんです。

桑原 うんうん。

田中 自分が昔からずっと聴いているのは、チェット・ベーカーだったりビル・エヴァンスだったり。そういう、死ぬまで聴ける音楽を作りたいと思うようになってきたんですよ。

桑原 ここに来る前に、『稲垣商店』という北イタリアの食材屋さんに寄っていたんだけど。そこの稲垣さんはすごいオーディオマニアで、今日行ったら「ついにターンテーブルを糸巻きにしました」とか言っていて。

田中 ほぉ。

桑原 結局、ターンテーブルの真ん中にあるモーターが悪さをしていい音が出ないと。そこで、安いターンテーブルを買ってモーターを外に出して、いろいろ試した結果、それと本体をつなぐ糸に高級着物に使われている絹を使っているらしいのね。壁一面にスピーカーがあって、そこにウサギの毛皮がかかっていて。それはおまじないらしんだけど(笑)。ケーブルも1920年代のドイツ製か何かを配電盤経由でつないでとか。そう考えると、僕らは時代の最先端というものをちょっと勘違いしているのかもしれない。

田中 そうですね。

桑原 最先端というのは、ただ新商品なだけなんだよね。

桑原茂一と田中知之/FPM_2、dictionary_vol.27_2

どんな時代でも、「酔狂」が文化の大事な部分を作ってきた(桑原)

田中 「最新」が「最良」かと言ったら疑問符がつきますよね。結局、音楽は体験するものだから。過去のモノラル録音技術や蓄音機の音像、それと現代のSN比的に優れた音像のどちらが良いかなんて、体験した人ならわかるじゃないですか。好き嫌いはあるにしても。つまり、録音技術も完全にロストテクノロジーで、そのぎりぎり巻き返しがきくものに、アナログレコードやカセットテープがあるから騒がれている。でも、もはやモノラル時代の技術には戻れない。自分は幸運にもモノラルレコードの魅力に気づくことができましたけど、それも最後の世代かもしれない。今後、何十万も何百万も使ってモノラルレコードを聴くための機材を揃えるとなったら、結構酔狂なことだと思う。

桑原 「酔狂」っていい言葉だね。どんな時代でも、酔狂が文化の大事な部分を作ってきているし。そもそも、酔狂な人物という意味には= 優雅な生活が最高の復讐である、みたいな部分があるから。豊かに生きるには、ある程度酔狂じゃないとだめかも。

桑原 破天荒でも自堕落でもなく、酔狂に生きる。それって、すごくクリエイティブで真面目な生き方だと思いませんか?

田中 ほんとそうですよ。

桑原 さっき話したオーディオマニアの稲垣さんは、デジタル機器ですら電気やケーブルを替えるだけで音が変わるって言っていて。そもそも稲垣商店で扱う商品に関しても、柳宗悦の民芸の精神がルーツだとか。つまり仕事も遊びも、今自分ができる最高峰を求めるのが稲垣流の「美」なんですよね。

田中 オーディオの世界って、単なるテクノロジーだけじゃない「謎」な部分がすごくあって。さっきのウサギの毛皮をスピーカーにぶら下げる話とか、そういう得体の知れないものも含めての良さだったりするんですよね。プラシーボ効果かも知れないけど、それも含めて夢がある。でも、僕も60年代とか70年代のヴィンテージ録音機材をいろいろ買っていた時期があって。その後、デジタルでそれらをシュミレートした低価格なプラグインが売られているんですけど。似てはいるけど、やっぱり本物には全然届いていない。未だにNEVEのヴィンテージ録音機材が一番高価で、しかも重宝されている状況は変わっていない。つまり、録音技術もある時点でピークを迎えたということ。

桑原 なるほどね。そのプラシーボ効果も、人間をよろこばせるための愛という解釈もできる。

田中 アナログの場合、昔の設計図通りに機材を復刻しても同じ音にならないとか。そういうマジックがおこるんですよね。相性もありますけど、最新の太い高価なケーブルよりも安価だけどヴィンテージのケーブルのほうが良かったり。だから、高ければ・最新ならば良いではないのがオーディオの面白さ。

桑原茂一と田中知之/FPM_3、dictionary_vol.27_3

『UNDERCOVER』の凱旋合同ショーはアートのインスタレーションのようで凄かった(桑原)

桑原 田中くんは「食」に関してもこだわりがあって。その世界もまた、高いから美味い、安いからダメという世界じゃないわけで。最終的に美味しいことが大事だとしても、どういう人が何をやろうとしているのか? 作っているのは誰なのか? そういうことを確かめないと納得しないわけでしょ。

田中 そうですね。

桑原 「結局、人なんだよ」って、そこに価値を求め直したときに何かが変わるはずなんですよね。トニー・べネットがいくらしゃがれ声で、90歳過ぎであっても、あの人を超える人がいないのは何故かといえば、彼の人間性だと思うんだよね。

田中 確かにそうですね。あと付け加えると、音楽がYouTubeで聴けたりストリーミングサービスで聴き放題だったり、すごく便利な世の中になっている。でも、ものすごい音像体験はできないんですよ。以前、ブルーノート1568番、ハンク・モブレーの1st.プレスで保存状態も最高のレコード盤が100万円で売っていたんです。その盤は、しかるべきモノラルのサウンドシステムで鳴らすと、とてつもない音がするらしいんですよ。でも、ただ持ってるだけでは鳴らすことができない。一方、同じアルバムのフルがYouTubeでフリーで聴けてしまう。タダと100万円、それに対して「100万円払うなんてバカじゃないの」と僕は言えない。

桑原 すごくよくわかる。その話は、さまざまな分野の人が伝えたいことだよね。先日、ファッションショーの現場を久しぶりに観たんです。『sacai』と『UNDERCOVER』の凱旋合同ショー。ジョニオのショーは昔に観たことがあったから、いずれもその衝撃たるやすごくて。今回はもう完全に15~20分のアート作品だったと思う。しかも暗転になったら一瞬で消えてしまう儚さもあって。今回、学生たちを多数招待したのは、そんな時間を体験できたかどうかで、その後の人生がどれくらい豊かになるかを伝えたかったんだと思う。

田中 僕も伺いましたけど、雨が降る中、あの場所で見たかが重要で。ファッションショーは今やネット配信でリアルタイムでも見られるけど、それとはまったく違うんですよね。

桑原 全然違う、リアルとは現場にいること。

田中 ブルーノートのレコードと同じで、タダと100万円の違いですよね。現場にいてあの空気を感じたかどうかは大きい。「食」の体験もそれに近くて。僕やその仲間たちは、「食べたことのないものを食わずに死ねるか」って感じで体験を大事にしている。一方、ミシュランの星の数から順番に予約したり、食べログの点数の高い順から巡っていくとか、スタンプラリーみたいなことをしている人もいて。そんなことでグルメを気取っているのは、滑稽に見えてしまうんです。

桑原 自分の舌は成り上がれないという意見もあるよ(笑)。

田中 先日、コペンハーゲンの有名レストラン『NOMA』と星付きホテルが共同で、世界中のグルメを食べて巡る高額ツアーを開催したんです。もちろん日本にも来たんですけど、そのとき彼らが食べたのはラーメン屋の裏メニューみたいなもの。今はそういう感じで、簡単には手に入らない体験に対してお金を払う時代になっている。何年か前、高城剛さんが「Webに真実なんかないよ」と仰っていたけど、まさにそうなってますよね。食通の人たちは、本当にお気に入りの店はどこにも公開しないですから。

桑原茂一と田中知之/FPM_4、dictionary_vol.27_4

フェスが盛り上がっているのは、ちょっとした良心(田中)

桑原 最初に出た「酔狂」という言葉をもう一度持ち出すとすれば、人生をバランス良く生活しようと思ったら無理で、本当に知りたいことがあるなら全財産をかける意気込みでやらないといけない。ジョニオくんも以前、「常に次のショーに全てをつぎ込んで、キワに立ってゼロまで追い込む」みたいな話をしていたけど。そういう人が作るものって「酔狂」だと思うんです。どの分野でも最終的に何かをなし得るには、上手にバランス良くでは難しい。

田中 ほんとそうですね。

桑原 音楽に関しても、ジョニオくんがショーに学生たちを招待したように、自分の資材をつぎ込んででも最高の音像体験をさせるとか。そうやって、弛緩している耳をもう一度酔狂な耳に戻させる試みこそ、これからの時代の大きな分かれ目になるのかなって思うんです。

田中 便利な世の中になっていますけど、結局は何も手に入れていないんですよね。僕は『dictionary』はずっと「紙」でやって欲しいと思っていて。やっぱり、手に取れるものは愛おしいんですよ。これまでにデジタルで買った音源はたくさんありますけど、思い入れはないですからね。でも、レコードに関しては、100円で買ったものでも10万円で買ったものでも思い入れがある。その違いって「レコードは持っていないけど、YouTubeでは聴いたことある」みたいな差だと思うんです。

桑原 情報と知恵の違いはあるよね。

田中 そういう中でフェスが盛り上がっているのは、ちょっとした良心ですよね。ライブアクトはもちろん、雨が降ってきたりとか総合的に感じられる。経験にお金を払うのはすごくいいことだと思う。

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現状だけを見て嘆くより、すぐ先の未来を考えることが大事(桑原)

桑原 田中くん自身は、情報に埋もれて弛緩してしまった多くの人の耳と、自分の耳は明らかに違っていると思っていますよね?

田中 違うと思っていますが、それは知っているか知らないかの違いだけだと思っていて。

桑原 もし100万円の音を聴かせてあげられることがあれば…

田中 彼らはそれを感じられると思うんです。人間の感覚は平等だと思う。僕が音楽の仕事をしているから聴き分けられるのではなくて、モノラルレコードの凄さは子どもでもわかる。それくらい簡単なことなんです。車で例えれば、ハイエンドの最新ステレオはAT車。一方で、50年代のモノラルサウンドはMT車。だからすごい迫力があるしG(重力加速度)もかかる。でも、運転しづらいし止まってしまうこともあるかもしれない。

桑原 将来的には、もしかすると田中くんがそういう環境をプロデュースして、的確な音楽を流すことがあるかもしれない。

田中 あったらいいなと思います。

桑原 そこに学生が大勢来るようになると、何年後かにはマーケティングも変わってくるかもしれないよね。何でこんな話をするのかというと、田中くんにも手伝ってもらった『代官山ティーンズ・クリエイティブ』っていう渋谷区の学生向けの施設(アートスクール)で、定期的にワークショップや講座の企画を手伝っていて、当初、中学生や高校生向けだと思って張り切っていたら、実は小学生中心で(笑)、でもハッと気づくとその子たちが中学生になっていて、ほんと、時代は変わる(笑)。しかも、小学生たちも、実は思っている以上に大人で吸収力があるからすごく伸びる。つまり、今の現状だけを見て嘆くより、すぐ先の未来を考えて行動することが大事なのかなって。子ども達から教わりました(笑)。

田中 わかります。今の現状に迎合する必要はないと思いますよ。こっちのほうが良いとわかっているのに、人が来るから、売れるからって良くないほうを選ぶのは不毛なことで。さらに、今の若い世代のさらに下は、上に対しての反動がくるはずなんです。今はあらゆる欲がないと言われているけど、その下の世代はものすごく強欲かもしれない。

桑原 あははは(笑)

田中 僕らが作った音楽がいまの世代に受け入れられなくても、次の世代には喜ばれるかもしれない。だからベストを尽くしておかないと。’90年代のレアグルーヴ・ブームだって、僕らの上の世代が聴かなかったからこそレア盤になって、世界中のDJやコレクターが掘った。そういう現象が起こることに賭けるのもアリかなって。現実ばかり見ているといじけてしまうので、自分が体験したこと、経験したことの中でベストなものを作るのが大事だと思っていて。

桑原 「新しい音楽が、良い音楽なわけではない」と大滝詠一さんも仰っていて。でも、ビジネスとなると、新しいものを作って売らなくてはいけない。その構造からどう巧く外れていくかという意味では、車が欲しくないとか消費欲が消える流れは当然で。その先にある「豊かな人生とは何か」「本当の酔狂とはなんぞや」っていう部分。そこは結局、田中さんが生き様として見せていくしかないよね。どれだけ能書きを言っても始まらないから。

田中 そうですね。

桑原 できることを精一杯やる。僕ならフリーペーパーを一所懸命にやるとか。それ以外にないですよね。

田中 間違いないですね。わからない奴は置いていくって、すべてを突き放す表現もあると思うんですけど。好きになってもらうために努力をするのも、愛おしいことだと思うんです。それを商売上手と言う人もいるかもしれないけど、信念を曲げることなくかっこいいものを作ったら、好きになってもらう努力をする。

桑原 それは大事だよね。

田中 クラブも過渡期に来ているので、おもろい現場を作らなきゃと思いますね。そこが課題かな。

桑原 期待しています。今日はありがとうございました。

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no. 01
White Christmas
Iggy Pop
世界一有名なクリスマスソングと言っても過言ではないこの曲。数多あるカバーの中でもおどろおどろしくもジェントルなこのイギーのカバーが一番好き。
no. 02
サンタクロース・アイ・アム・橇
トニー谷
故 大瀧詠一氏プロデュースのトリビュート盤で知りました。アイムソーリーのソーリーが橇(笑)。しかしトニー谷は昭和の宝だなぁ、と改めて。
no. 03
クレイジーのクリスマス
クレイジー・キャッツ
かのビートルズが毎年クリスマスにファンクラブ用に配ったソノシートのような楽しいコラージュ〜ミュージックコンクレート作品の正に昭和な日本版
no. 04
Santa's Got A Bag Of Soul
The Soul Saints Orchestra
クリスマスソング史上、最もマッシブなブレイクビーツを擁するこのトラック。全世界DJが血眼で探すこの7インチ。当然、私も欲しい。サンタさんひとつよろしく。
no. 05
4`33"
Cage Against The Machine
テレビ番組企画の音楽チャート支配に抗議する意味で、ジョン・ケージの無音の名曲をカバーして2010年のクリスマスにチャート1位を目指し、実際にデジタルリリースされた
no. 06
Starless
King Crimson
「星無き、聖なる闇…」。ロック史上、最も荘厳で耽美で陰鬱でカオスな曲。高校1年でキングクリムゾンに出会って以来、私の中では裏クリスマスソング第1位
no. 07
The Bell That Couldn't Jingle
HERB ALPERT & HIS TIJUANA BRASS
バート・バカラックによる美しい旋律は何度聴いても身震いする。これぞ我々が子供の頃に憧れたミッドセンチュリーの豊かなアメリカのクリスマス 。
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今年の「 クリスマスの夜 」は、どうするの ?メリー、ク・ル・シ・ミ・マ・ス。私たち日本人は、どうしてこんなにダジャレが好き・なんでしょうか?こなさん、みんばんは。初代、選曲家の桑原茂一です。さて、Pirate Radioのクリスマス選曲といえばこの人。今夜のお客様は、ワンダフルでファンタスティックな音楽プロデューサーであり、リスペクト・マックス! 世界を股にかけるDJ、そして、聡明且つ、インテリジェントな編集者でもある、田中知之さんの選曲でした。田中知之の選曲には必ず新しい発見と感動があります。今ある自分に満足することなく、地図のない道を、どこまでも突き進む求道者たる田中知之の世界は言葉では表せない唯一無二の魔法の世界があるのです。しかも、誰に対しても平等に接するその謙虚さが何よりも素晴らしいのです。俺のフレンチ、俺のイタリアン、俺のおでん、オレ、オレ、俺様的な、傲慢さが微塵もないのです。謙虚とは品の良さのことですが、では、その品の良さはどこから来るのでしょうか?それは経験値の厚みだと思います。10回よりも1000回、千回よりも満開。情報量を競うのではなく、引き出しの多さを誇るのでもない。つまり、絶壁に立つ、岐路に立つ、ネバーギブアップの回数のことだと思うのです。伝統芸に日和ることなく、誰でもない自分だけの選曲を追い求める道こそ、邪の道、選曲の道。ここで一句、「 選曲 前戯の他に 道はなし」 桑原茂一

ps: 同志!Mr, W T来年のクリスマスもここで会いましょう。

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Pirate Radio  
選曲構成 moichi kuwahara 「peace on earth」11/24(FRI)23:00〜ON AIR!

https://www.mixcloud.com/moichikuwahara/

田中知之

田中知之(FPM)| Tanaka Tomoyuki

ダンスミュージックに自身のルーツを散りばめた独自の音楽スタイルが支持され、これまでに8枚のオリジナルアルバムの他、多数のアーティストプロデュースを手がけている。DJとしても国内だけにとどまらず、世界約60都市でのプレイ。また、リミキサーとして布袋寅泰、ファットボーイ・スリム、くるり、UNICORN、サカナクションなど現在までに約100曲もの作品を手がけている。その他、CMの楽曲制作もおこなうなど多方面で活躍している。

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