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一期一会  選・桑原茂一 ゲスト:森本千絵

一期一会  選・桑原茂一
ゲスト:森本千絵

社会の中で活躍されている女性をゲストにお招きし、その生き方を伺う連載。今回は、アートディレクターとして、数々の広告やミュージックビデオを制作。近年は、コミュニケーションディレクターとして、デザインの領域を広げ続けている、森本千絵さんに登場していただきました。クリエイティブな発想の原点となる幼少期のお話から、旦那さまと出会うに至る驚きの展開まで、不思議なお話がいっぱいです。

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「幸福とは何か?」について人類は研究してこなかった(桑原)

桑原 人類は約7万年前のアフリカの片隅から始まって、カヌーからスペースシャトルへと進歩しているようですが、サピエンスによる地球支配はこれまで、あまり誇れるようなものを生み出していないそうです。永遠の若さや、創造と破壊の神聖な能力さえも手に入れかけているにもかかわらず、個々のサピエンスの幸福の尺度で言えば、中世の農民の幸福からほとんど増進していない?しかも、そうした幸福の研究が始まったのも最近のことらしいですね。

森本 「幸せ」をデータ上で検証すると、福井県に先日行った時聞いたんですが、日本は福井県が一番幸せらしいですよ(笑)

桑原 そうなんだ。ルクセンブルグとかも、名前を聞いてもどこだっけ? みたいになるけど、実は世界で一番お金持ちの国だったりするし。だから、見えているようで、僕らは意外と見えていないのかもしれないよね。

森本 私はほとんど見えていない気がします。

桑原 幸福の話は、『サピエンス全史』という本からの引用なんですが、ざっくりいうとこの本の結びは、あまり希望がない結論で終わってます。すでに人類は新しい命を生み出す一歩手前まで来ているにもかかわらず。その生命体を人類と呼べるかどうかは別にして、それって神様の領域じゃないですか。

森本 そうですね。

桑原 にも関わらず、自分たちが何を望んでいるのか分かっていない。常に不満でますます無責任になる神々ほど危険なものがあるだろうか?と結んでるんだよね。これは人類全滅予言とかの本じゃなくて、我々はかつてなかったほどの強力な力を手に入れてもそれをなにに使うか考えてこなかった。サピエンスにとって「何が幸福か?」について長い間、誰も研究してこなかったことを指摘しているんです。自分たちが何を望んでいるのか分かっていないことに早く気がついて欲しいとね。

森本 「個」の幸せはどうなんですか?

桑原 「個」の絶対的な幸せ量は増えていないし、世界の苦しみの量も減っていない。人類の進歩は、戦争を減らしたり、疫病を減らしたり、克服できるものは克服してきたはずなんだけど、例えばアートの世界にピカソという偉人がいたとか、メディアの進化で戦争への抑止力が高まってきたとか、次々と世界的規模の会社が生まれてるとか、こうした歴史はどんどん勉強するんだけど、個々のサピエンスの幸福がそれにどう影響されているのかの研究は今ようやく始まったそうです。

森本 う~ん、難しい…。でも、幸福って、誰かが与えるものとか、外的な要因ではないですよね。意識とか、心の内側のことだから。

桑原 ラブ&ピースの時代にも、「内面を見つめろ」と言ってたわけ。でも、禅に代表される「ブディズム(仏教精神)」の世界では、自分の中にある妄想そのものを「無」にすることだから、当時の人たちは少し解釈を間違えたのかもね。無限に湧き上がる妄想を無にしない限り、心の静寂は訪れない。

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楽しめることと、幸せであることは違うと思う(森本)

森本 私、これまでの人生で、何回朝を迎えたかわからないんですけど…。この前、ある人に「起きた瞬間の感情を覚えているか?」って聞かれたんです。考えてみたら、なんとなく起きていて、目を覚ますことが当たり前だと思っている。今日も目を開けた瞬間の感情なんて意識していないですけど。もしかしたら、自然にスキップさせているそのコンマ何秒の間に、何かがあるのかもしれない。でも、そういう自然とスキップさせている感情にフォーカスを当てて、解像度を上げようとすると、すごく疲れちゃうと思うんです。自分がラクなところをつまんで解釈しているから、どうにか容量が足りていますけど。もしも幸せについて本気で考え始めたら、ディテールを追うことが増えすぎて、容量オーバーになりそう。

桑原 なるほどね。

森本 永遠の命を持っても、そこは変わらなそうですよね。

桑原 人類は「何になりたいのか?」以前に、「何を望んでいるのか?」すら面と向かって考えていないんだもんね。

森本 確かに。でも、ずっと不幸だった人が、たった1時間だけでもすごい奇跡を感じることができた場合、奇跡が起きない平均的な人よりも幸せなんですかね? 

桑原 そういう物語が、文学やアートと呼ばれるんだろうけど。でも本当は、ニューロン、シナプス、セロトニン、ドーパミン、オキシトシンとか、さまざまな生化学物質が脳内で作用して幸福は生まれるわけだから。そういうものが血流に乗って全身を駆け巡らなければ、幸せとは思えないわけで。そういう物質を自由に分泌できるようになったら、何もせず座っているだけでずっと幸せ。それはそれで、どうしていいかわからないよね(笑)

森本 まだiPhoneが発売される前に、携帯電話の開発をやらせていただいたことがあって。打ち合わせの場で、画面が全部液晶で、天気を調べると、そこから浮かび上がるように手のひらの上で雨が降ったり、雷が落ちたり、NYの街が出てきたら、もう神様のレベルだよねって話をしていて。そんな空想から始まって、みんなが何もしなくなって、指も退化して1本くらいになって、恋愛も思想も脳で作り上げて…と考えながら絵を描いていたら、最終的に小さい頃に見た宇宙人のフォルムになったんです(笑)。それを見ながら、これになりたいか? と思ったら、まだ進化途中だとしても今のフォルムがいいなって。今の姿ならファッションも楽しめるし。きっと、何か不自由さがあるからこそ、面白いことを見つけたり、反発して何かを作ったりとかをするんだと思う。楽しめることと、幸せであることは違うと思うんですよ。

桑原 でも、そのほうが幸せかもしれないよ。

森本 違う視点から見れば幸せかもしれないけど、楽しいことじゃない!

桑原 その判断ができるということは、森本さんが、自分発の欲望をほぼ制御及び達成可能な環境にいるんだと思う。

森本 うん。

桑原 もしかしたら、森本さんは脳の使い方がすごく上手な方で。小さいときから自分の夢を実現させるにはどうすればいいかを、他の子どもたちよりも会得してきたのかもしれませんね。意識していたかどうかは別にしてね。今、夢を売るデザイナーとして活躍されているわけじゃない? 人に夢を売る仕事は、夢を作らなきゃと机に向かって悩んでも作れないわけで。思考を上手に操作できる人だけが、夢を具現化することができると思うんですけどね。

森本 う~ん、どうなんだろう。

桑原 自転車がいい例で、乗れないときは恐いけど、乗れるようになると、なんで乗れなかったのかわからなくなるほど自然に乗れる。出来なかった後ろに戻れなくないですか?

森本 はい。

桑原 常に人は新しいものを探検して征服するというか。そういうのが得意な生き物だから、資本主義とは相性がいいらしんですよ。だから、世界がこんな感じになってるって。

森本 なるほど、面白い。

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今でも仕事で心が折れそうになると、急にクッキーの香りがしてくる(森本)

桑原 小さい頃はどんな子どもだったんですか?中国の言い伝えでは、男の子はおばあちゃん、女の子はおじいちゃんのセンスを受け継ぐと言われていますよね。

森本 間違いなく、私はおじいちゃんから受け継いでいますね。祖父母はチャイニーズですし。

桑原 そうなんだ。子どもの頃、どうしても欲しかったものを手に入れた喜びとか、何か覚えていますか?

森本 どうしても欲しかったけど、手に入らなかったエピソードは覚えていますね。小さい頃、父は沢田研二さんのマネージャーをやっていて、母はアグネス・チャンさんの付き人をやっていたので、すごく忙しくて。だから、もの心がつくかつかない頃まで、祖父母の住む青森県の三沢市で暮らしていたんです。おじいちゃんは、三沢の空軍基地内でテーラーをやっていて。

桑原 えぇっ、なんか新作映画を見始めたような気がしますよ。どんどん絵が浮かぶもん。

森本 なので、基地のお客さんの家に泊まることもあって。そうすると、外国の子どもは、すごく大きなドールハウスを持っているんですよ。それが欲しくて欲しくて。ドールハウスごと引きずって、玄関から出そうとして怒られたり。でも、いくら頼んでも買ってもらえなくて。あとは、東京で母親と一緒に出かけているときに、一目見て気に入った『Dr.スランプ アラレちゃん』の着せ替え人形があって。欲しい欲しいと言っていたら、その道を戻って母親が買ってくれたんですよね。すごく嬉しくて。それを託児所みたいなところに持って行ったら、そこにいた子たちに全部盗られて。人形のシルエットだけになったパッケージと、ストライプのパンツを履いた則巻千兵衛さんしか残らなくて。それが本当にショックで、布団という暗闇のなかで、泣きながらハァハァ言っている映像だけが記憶に残っています。

桑原 その話を聞くだけで、なぜ今この仕事をしているのかがクリアに見えてきますね。

森本 見えない、見えないですよ(笑)。当時は、なぜかわからないけど石を投げられたり、物を盗られたり…。大人になって、あれはイジメだったのかもしれないとわかったんですけど、それくらいボーッとした子だったんです。お弁当も幼稚園のトイレで食べていて、でも悲しいわけではなくて、ひとりになりたくて喜んでやっていた。その頃、よく覚えているのが、クッキーの香りがするポケットティッシュが大好きで。それを嗅ぎながらバスに乗って幼稚園に行っていたんです。幼稚園を休めることすら知らなかったから、ティッシュの香りを嗅いで心を落ち着かせていて。その記憶が残っているのか、今でも仕事で心が折れそうになると、急にクッキーの香りがしてきて。なぜか人間が平べったく見えてきて、動悸が始まるんです。それが何なのか未だ解明できていないんですけどね。

桑原 でも、普通だったらやめてしまうところを、別の視点に置き換え、自分の居場所をちゃんと作る。そういう物事との距離感の測り方って、クリエイティブな仕事をする人には、みんなあるみたいですね。自分を苦しめる問題との距離の測り方が上手なんですよ。私が編集している『フリー・ペーパー・ディクショナリー』でインタビューさせてもらった音楽家から聞いた話なんですが。学生の頃、作曲を教える先生に自分の作曲に対する姿勢そのものに釘を刺されたり、バイオリンの先生からは子供には到底無理だと思わされる練習を強いられたり、と逃げ出したくなる経験をするのだけれど。それでも音楽を辞めない方法を、いつの間にか会得しているというか、自分が本当にやりたいことを潰されないための知恵が働いているというのでしょうか。対象との距離の測り方がとてもうまいんですよね。

森本 そういうのはあるかも。

桑原 子どもの頃、何かものを作るとかはやっていたんですか?

森本 箱を組み合わせて、人形遊びしたり。おじいちゃんに生地をもらって何か作ったりはしていましたね。でも、ボーッとした子だったんですよ。ほとんど喋らない子どもで。小学校1年生の担任によると、名前を呼んでも「ハイ」と言わない子だったみたい。

桑原 たぶん、もうすでに自分の作る映画の中にいたんでしょうね。

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絵を描きたいから、読んでない本をでっち上げていました(森本)

森本 でも、自分の記憶でひとつだけ不思議なことがあって。ボーッとしてて名前も言えない、ろくに勉強もできない、字も書けないのに、なぜか小学校1年の後期にラブレターを書いているんです。そのとき、差出人のところにはクラスの女子全員の名前を書いて。私、記憶力だけは良くて、いつも目で記憶してたから、お友だちの顔ではなくて座席表が頭に入っていて。机の配置図を描けば、そこに全員の名前が書けたんです。

桑原 えっ、それって、サヴァン症候群じゃないんでしたっけ? 確か「レインマン」(映画) だったっけ。

森本 あれっ、私病気だったのかな(笑)。それで、ラブレターを机に忍ばせておいたら、男の子が朝礼で先生に言っちゃって。しかも、公園に呼び出すみたいな感じの怪しい内容だったから、先生も差出人の名前をひとりひとり読みながら確認していって。女子全員の出席簿をとるみたいになっちゃったんです(笑)。もちろん、「違います」って私も返事したんですけど。でも、なぜか掃除の時間に先生に呼ばれて、「朝、2年生の人がゴソゴソしているのを見ました」とごまかしたのを覚えていますね。

桑原 へぇ~。

森本 その後、小学校の3・4年生くらいから急に頭が動き出したのか、少し賢くなったんですよ。それで、ボーッとしていた1年生の頃のノートを読み返したら、「の」とか「ま」の回転部分が全部逆になっていて。そのときに、「あっ、先生は犯人を知っていたんだ!」とわかって愕然としましたね。完全犯罪だったと思っていたから(笑)

桑原 ラブレターは書いても、文章を書くことには夢中にならなかったの?

森本 ならなかったですね。でも、読書感想文ノートの余白に絵を描くのが好きで。絵を描きたいから、読んでない本をでっち上げていました。いまもそのノートがあるんですけど、タイトルと作者名は適当。描きたい絵が先にあって、それを描くために感想を適当に書いていて。

桑原 架空の絵本がいっぱいあったわけね。

森本 そうなんです。この前、そのノートを絵本専門店の『クレヨンハウス』の方に見てもらって。具体的にどの本があって、ないのかを解明してもらったんですよ。

桑原 ここまで話を聞いて思うんだけど、森本さんはすでに映画を作ってなきゃいけないし、あるべき絵本も再現しなきゃいけない!(笑)やることが増えましたね。

森本 あははは、あるべき絵本って面白い。

桑原 そういう古いものはお母さんが残してくれていたんですか?

森本 父なんです。うちの父は沢田研二さんのマネージャーを卒業して、自分の会社を立ち上げた頃から、急にお父さんをやり始めて。私が小学校の高学年くらいかな、急に運動会でも目立つし、どこにでも出没するようになって。博報堂に就職したときも、撮影現場でお父さんが映っちゃうくらい。みんなに「あぁ、森本さんのお父さんね!」みたいな感じになったんです。

桑原 娘とのつながりを取り戻したかったんだね~。いい話だなぁ、全部が物語だね。でも、いまの仕事につながるようなことはなかったの?

森本 小学校3年生くらいのとき、当時は『キン肉マン』の絵をすごくうまく描けて。それが男子にバレてからは、私の机に列ができて、みんなのノートにキャラクターを描いてあげてましたね。女の子には『魔法天使クリィミーマミ』。そうこうしているうちに、みんなから誘われるようになって。学校の発表会では、クラスでダメな男の子をあえてシンデレラ役にして、女と男をすべて入れ替えて『イッツ・ア・スモール・ワールド』の逆さ歌を作ってミュージカル風にするという企画を立てて。そうしたら大爆笑になって、その男の子も突然人気者になっちゃったり。

桑原 面白い。

中学からずっと同じ仕事をしているわけだ、職歴長いですね(桑原)

森本 あと、やっぱりすべての情報が目から入ってたから、黒板をノートに写すときも、数字を全部りんごにしたり、数式も絵にして、先生や黒板とかも書き込んだりしてて。そうしたら、小野先生に「森本さんのノートを見てください」って朝礼で発表されて、「いいノートで賞」みたいな手作りのメダルをもらって。それが初めての賞だったんです。それくらいから、ものを作ったり、企画したりするのが楽しくなって。その後、中学・高校は女子校で、卓球部に入るんですけど。

桑原 えっ? そこで、なんで卓球部に?

森本 うちの両親が、「社会を知るには運動系の部活に入ったほうがいい」って言うわけですよ。でも、私は遊びたいから卓球ならラクかなって。卓球台に座ってお菓子食べて、ラジオを聴きながら過ごすっていう。本気で取り組んでいた先輩もいたんですけどね。でも、2年生のときに新入生の勧誘をしなければいけなくなって。そこで思いついたのが、一番背の低いハマちゃんを主役にして3人組を作って、当時流行っていたキョンキョン(小泉今日子)の『見逃してくれよ!』の曲に合わせて、卓球のいろんなスイングをしながら、「い~じゃん!」の歌詞にひたすらハメていくパフォーマンスを企画したんです。そうしたらすごく人気になって、突然12人くらいの新入生が卓球部に入ってきて(笑)。広告効果がすごかったんですよ。部員が総勢30名くらいになって、そうしたら顧問が2人になって、卓球台も増えて、卓球マシーンまで導入されて。そうなると練習せざるをえなくなって、中3で都大会に出ました。

桑原 あははは、結局卓球が上手くなったんだ。

森本 でも、女子校だったから、後輩から好かれて手紙もらったりとか、だんだん怖くなって。結局、彼女たちの愛を受け止めきれないと思って、卓球部を辞めました(笑)

桑原 もう何がなんだかわかんないよ…。

森本 高校のときは、体育の授業でレオタードを着てバレエを踊るみたいな発表があって。私のグループはみんなダンスができなかったので、曲を『ゴーストバスターズ』にして、レオタードではなくセーターを頭から被って、オリジナルの振り付けでコミカルにやったらウケちゃって。そうしたら、ダンス部の先生から、その振り付けをダンス部で使いたいと。その不思議な『ゴーストバスターズ』で、スタイルのいいダンス部の子たちが踊ったら、全国大会で入賞しちゃって。以来、学園祭の定番みたいに引き継がれていったんですよね。そういうことが積み重なって、絵描きというよりも話題を作るという広告の世界に憧れて就職するに至ったんです。

桑原 中学からずっと同じ仕事をしているわけだ、職歴長いですね。

森本 確かに長いですね…。卓球部員を12人も入れて、部室まで広げたら、ギャラをもらってもいいくらいですよね(笑)

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産後は娘に取られたのか、自分の母性が身体から出ちゃった(森本)

桑原 すごい! もはや今の仕事だけじゃ物足りないでしょ? お子さんもいらっしゃるし、森本さんが企画すれば、待機児童の問題も新しい概念で解決できちゃいそう。

森本 そういうのもやってみたいですね。産後は娘に取られたのか、自分の母性が身体から出ちゃって。娘を見ると、私の母性が歩いているみたいな感じ。これまでは、仕事が自分の子どもみたいな感覚だったので、愛情をかけ過ぎて仕事を選んだり、断ったり、喧嘩をしたりとかありましたけど、それが今はない。もはや、来るもの拒まずというか。いくら仕事がきても、胃下垂のようにまだ食べれるみたいな。全然ハードじゃないんです。

桑原 ユーミンの『宇宙図書館』のアートワークにしても、デザインの領域から越境しているんだと思うんですよ。自分では気付かなくても、越境して、好きな夢が作れるようになっている。最近は、誰もがヘマをしないようにっていう、外すことを極度に恐れる世の中で、みんなが保守的になっているけど。そこを解き放っているよね。

森本 今はすごくラクです。プレゼンで負けても面白いし、勝っても面白い。いい加減なワケではなく、人にどう見られても恐くないですね。

桑原 気づかずに瞑想して、自分の感情を自由にセーブすることができているんですよね。多分。

森本 ですかねぇ。

桑原 今日のお話を聞いていて「無意識な人」だなって思いましたもん。もはやエライお坊さんの領域。

森本 このあいだ、浄土真宗のお寺で講演をしてきました。

桑原 あははは、お坊さんにもできないことをしている人だもん。それは頼まれるよね。ちなみに、これまで生きてきた中で一番のミラクルって何ですか?

母に「企画書には細かく描くのに、なんで結婚したい人を具体的に考えないんだ!」と怒られたんです(森本)

森本 いっぱいありますけど、一番は結婚かな。結婚は、かなり変化球でやってきましたね。ある時期、一度会社がダメになりかけて、自信も無くして…。私は落ち込んでいたんです。そんな私を見かねて、お父さんが誠実なマネージャーを紹介してくれて。その人とは、出張帰りの空港で待ち合わせたんですけど、そのときに何故か、その方がぶさいくな犬を連れてたんですよ。

桑原 ほぉ。

森本 初めてましてで緊張しているのに、その犬が気になっちゃって。ブルドックだと思ったら、「チワワです」って言われてびっくりして。でも、どうやらその犬は手放されていて、その方が一時的に保護していたみたいなんですね。そんなときに「良かったら、飼いませんか?」と言われて。まぁ、会社が傾いたり、落ち込むことがなかったらこの犬に出会うことはなかったわけで。そういうモヤモヤと引き換えに、その犬と楽しく過ごしてたんです。でも、独身でペットを飼うと結婚できないとか言うじゃないですか。

桑原 そんな話があるの?

森本 そうなんですよ。当時は借金もあって仕事も調子悪くて。そんなとき、お母さんが「とりあず、寅さんでも観たら?」って言うので、一緒にBSで映画『男はつらいよ』を観てたんですね。すると、「結婚したいって言うけど、そんなにしたいなら、理想の結婚相手について細かく描きなさい」って言うわけです。「どんな髪質で、どんな耳でと、企画書には細かく描くのに、なんで結婚したい人を具体的に考えないんだ!」って怒るんですよ。それもそうかと思って、寅さん観ながら深夜に描かされて…。

桑原 うんうん。

森本 その企画書を書きながら、一方で寅さんについてツイッターで呟いていたんです。そうしたら、検索ワードで引っかかったのか、松竹映画の方に寅さん好きだと思われて。「原宿シネマ × 男はつらいよの企画で、館長をやりませんか?」と声をかけてくださって。私も館長をやるからにはと、仲のいいヘアメイクの富澤ノボルさんにがっちり寅さんにしてもらって、衣装もきっちり揃えて、朝から柴又へ行って、映画と同じポーズをして、カメラマンの佐藤新也さんに写真を撮ってもらってSNSにアップしてたんです。そうしたら、山田洋次監督のスタッフさんがそれを見つけて、「変な人がいる」って監督に見せたらしいんです。その流れで、イベント当日にサプライズで山田洋次監督が来られて。スタッフの方もざわついちゃって。

桑原 それはすごいね。

森本 監督からは、「わたくし生まれも育ちも~」のセリフの、「わ」の発音が下手だって何度も練習させられて(笑)。そのときに一緒にいた、私を発見してくれたスタッフさんが、いまの夫なんです。

桑原 えっ? なにそれ!

森本 しかも、お母さんの前で描いた企画書の絵とすごく似ているんです(笑)。

桑原 うわ~っ、もうなんかすごいとしか言えないよ…。今日の話は、たくさんの人に読んでもらいたいな。きっと何かしら生きるヒントになると思うんです。面白い話がいっぱい聞けました。ありがとうございました。

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no. 01
The Sound of Music
Julie Andrews

サウンドオブミュージックは、私が小さいころジュリーアンドリュースになりたいと願った憧れのものです。夢が叶って3年前ザルツブルクまで行き、50周年を迎えるTHE SOUND OF MUSICの取材でジュリーアンドリュースご本人にお会いし取材をしてきました。一緒にドレミステップでドレミの歌を歌いました。

no. 02
Ghost Busters
Ray Parker Jr.

体育の授業の創作ダンスで使用し、学園中盛り上がるダンスと化したこと。

no. 03
見逃してくれよ
小泉今日子

小泉今日子さんのこの歌に合わせ卓球部の新歓でラケットを使った華麗なる創作ダンスパフォーマンスにより部員数拡大。

no. 04
Blood
The Middle East

とてつもなく苦しくなりすべてが平べったくなりクッキーの香りがする時、無性にこの音を聴きたくなります。幼少期を辿ると、頭にこの曲がなります。

no. 05
Beyond the Sea
Django Reinhardt

おじいちゃんを思い出す。あのころはこんな音の時間だったと思います。

no. 06
girls
高木正勝

言わずもがなの名曲であり、この後たくさん仕事もしていて一緒に何曲も作ってるがこれに関してはやはり特別な思い出があります。ある日母が家出しました。滅多に外に出ようともしない母が一人で旅に出たんです。連絡がきて北海道にいると。おじいちゃんが昔、北海道と青森を列車がいつか通る。それが楽しみだと言ってたそうで、今は亡きおじいちゃんにふと母は会いたくなったみたいで勇気を出して家を飛び出しました。私と父はとても驚きました。母はどんな気持ちで列車に飛び乗ったんだろう。どんな景色何だろうと想像すると胸がぎゅうッとなります。そのサウンドトラックにしか聴こえないんです。

no. 07
Golden Brown
The Stranglers

メリーゴーランドという父の会社名。私のgoen°、良くも悪くもぐるぐる回り続ける。たまに地面で枯葉がずっと同じところをぐるぐるしてて、うわあとなって蹴りたくなる時がありますが、この曲がそんな感じなんです。

no. 08
Postcards From Italy
Beirut

とにかく好きですね。Beirutは。各地で出逢った人や景色で方法が代わり音が変わるのは私は影響受けてます。こんな気分で作っていけたらなと憧れます。一人なのか百人なのか人のサイズが見えないものはいいなと。

no. 09
My Way
Sid Vicious

美大を目指している時、とてつもなくすべてはみ出したくて、色気や影に惹かれたものです。こんな感じだったなぁと。恥ずかしくなりますが、このまんまです。

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こなさん、みんばんは。海賊船、Pirate Radio 船長役の桑原茂→です。
今夜のお客様、夢を描くデザイナー、森本千絵さんの選曲は、まるで結婚式のメモリアル・フィルムを見るように、ご自身の歴史を紐解く痛快ファンタジー選曲でした。やはり、選曲はご自身の個性を映し出す鏡のようなものかもしれませんね。
では、選曲家からの提案です。このインタビューをお読みになる際には、森本さんの選曲を同時に聞いてみてください。すると、あら不思議、あなたの想像するオリジナル映像がまるで朝の連ドラを見るように次々と映し出されるはずです。ぜひ、お試しください。そしてあなた自身の歴史もぜひ選曲してみてください。きっと思いがけない発見が生まれることだと思います。
さて、私の選曲は、春こそ女性の季節。桃色の花びらが舞い踊る春爛漫に因んで、テーマは「Peach’s Night」。多彩な女性ボーカルをフィューチャして選曲させていただきました。
初代選曲家 桑原 茂→

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Photo Collage 桑原 茂→

選曲はこちらからお聞きください。

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森本千絵|Chie Morimoto

株式会社goen°主宰。コミュニケーションディレクター・アートディレクター。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科客員教授。
1976年青森県三沢市生まれ。1999年武蔵野美術大学卒業後、博報堂入社。
オンワード樫山、Canonなどの企業広告をはじめ、NHK連続テレビ小説「てっぱん」のオープンニングタイトルや、松任谷由実、Mr.Children、などのミュージシャンのアートワーク、本の装丁、映画・舞台の美術や、動物園や保育園の空間ディレクションを手がけるなど活動は多岐に渡る。
最近では、Mr.Children「ヒカリノアトリエ」、松任谷由実「宇宙図書館」、Right-onのイメージビジュアル・TVCM、KIRIN「一番搾り 若葉香るホップ」のデザインを担当(3/21発売予定)。
3/3にオープンした南三陸志津川さんさん商店街ではサインデザインを手がけている。
また、今年7/13~9/18の期間、中島信也氏との共同企画展「森の中展」を鹿児島県霧島アートの森にて開催。

受賞歴:
N.Y.ADC賞、ONE SHOW、朝日広告賞、アジア太平洋広告祭、東京ADC賞、JAGDA新人賞、SPACE SHOWER MVA、50th ACC CM FESTIVALベストアートディレクション賞、日経ウーマンオブザイヤー2012、伊丹十三賞、日本建築学会賞、など。
東日本大震災復興支援CM、サントリー「歌のリレー」でADCグランプリを初受賞。

著書:
「GIONGO GITAIGO J゛ISHO」(ピエ・ブックス/2004年)
作品集「MORIMOTO CHIE Works 1999-2010 うたう作品集」(誠文堂新光社/2010年)
ビジネス本「アイデアが生まれる、一歩手前の大事な話」(サンマーク出版/2015年)

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